2021年6月20日日曜日

第3章 美しく文章を構成するノウハウ(6)

さて、また、なお

ここまで、「段落の区切り方」「表題、見出しのつけ方」「起承転結」「要約のしかた」など、美しい文章を構成するための基本的なテクニックについて解説してきました。紙面の都合もありますので、仕上げにちょっとした応用編のテクニックをお伝えして、第三章を終わることにします。

「私たちが日常で書く文章のなかで最も頻度の高いものは電子メールかと思います。電子メールを作成する際、私は「さて、また、なお」を愛用しています。これは、電子メールに限らず、案内文書などビジネスで使える場面が多数あります。ぜひ読者の皆さんもご活用ください。まずは、「さて、また、なお」の使用方法を説明します。

「さて」は前置きが終わって本題に入るときに使います。

先日は、弊社ショールームにお越しいただきありがとうございました。

さて、その際に案内しました新商品について、詳しい説明をさせていただきたいと存じます。今月下旬で、ご都合のよい日時をご指定ください。

「また」は本題が複数あるときに、文章を次の本題に切り替える役割を果たします。

新商品は、弊社研究所の技術を結集したもので、数多くの特許が含まれています。性能は競合品をはるかに上回ります。

また、これまで販売しておりました商品についても、デザインをリニューアルいたしました。

「なお」は追伸を記載するときに使います。

どちらも自信をもってお薦めします。

なお、貴社を訪問する際は、先日不在にしておりました営業部長の●●も同行し、ご挨拶させていただきたいと思います。

では、さっそく練習問題です。次の電子メールによる会議の案内文を、「さて、また、なお」を使って、より美しい文章に手直ししてください。

 

支社長各位

皆様ご存知のとおり、本年度第一四半期の業績は好調で増収増益となりましたが、競合他社が近々新製品の発売を予定しており、第二四半期以降はより厳しい競争環境が想定されます。気を緩めることなく、活動量を維持してください。現時点での当社の商品開発の状況を共有し、今後のマーケティング戦略について議論するために、4月27日(水)9:30~17:30、東京本社第1会議室にて臨時の支社長会議を開催しますのでご出席ください。会議資料は、一週間前までにメールにて送付しますので、事前にお目通し願います。会議終了後、本社近隣の飲食店にて懇親会を開催する予定です。ご都合のつく方はご参加ください。費用は当日集金します。東京本社への出張が難しい方は、テレビ会議での出席も可能です。その場合は、4月18日(月)までに、事務局までご連絡ください。

以上  事務局:営業部 ○○ 内線:××××

 

電子メールであれ、手紙であれ、相手を特定した文書では、いきなり本題に入らず前置きがあるのが一般的です。相手が社外の方や、知人であれば挨拶から始めます。電子メールでは、手紙ほど形式が重視されませんので、「お世話になっております」といった簡単な挨拶で済ませる場合がほとんどでしょう。上記の事例は、社内向けですので挨拶は省略されています。では、前置きはどこまででしょうか。会議の案内文ですから、それに関係のない内容が前置きと考えればよいのです。「活動量を維持してください」というところまでです。この後に、「さて」を入れます。

練習問題の本題ではありませんが、会議の案内のなかで、日時や場所が文の途中に埋もれているのは、美しい日本語としては減点対象です。これは文の外にくくり出しましょう。

次に会議案内の終わりを見つけてください。「会議資料」について書かれた文は、会議の一部とみなします。終了後の懇親会は、任意参加のようですから、会議の続きということではありません。ここで話題が変わっているので、その前に「また」を入れることにします。

「なお」がくるのは、追伸がある場合です。この事例はいかがでしょう。懇親会の案内の後に、テレビ会議での出席について書かれています。これは出張ができない人だけに向けた追伸です。「なお」を使うと良い場面です。

それでは、「さて、また、なお」を使用し、形式も整えた文面をご覧ください。

 

支社長各位

皆様ご存知のとおり、本年度第一四半期の業績は好調で増収増益となりましたが、競合他社が近々新製品の発売を予定しており、第二四半期以降はより厳しい競争環境が想定されます。

さて、現時点での当社の商品開発の状況を共有し、今後のマーケティング戦略について議論するために、臨時の支社長会議を開催しますのでご出席ください。会議資料は、一週間前までにメールにて送付しますので、事前にお目通し願います。

日時: 4月27日(水) 9:30~17:30

場所: 東京本社 第1会議室

また、会議終了後、本社近隣の飲食店にて懇親会を開催する予定です。ご都合のつく方はご参加ください。費用は当日集金します。

なお、東京本社への出張が難しい方は、テレビ会議での出席も可能です。その場合は、4月18日(月)までに、事務局までご連絡ください。

以上  事務局:営業部 ○○ 内線:××××

 

文書はたいへん読みやすく、わかりやすくなりました。美しい電子メールです。

「さて、また、なお」は便利な道具ですが、常に使えるわけではありません。他の言葉の方が適当となる事例をあげておきます。

先日は、弊社ショールームにお越しいただきありがとうございました。その際に、○○部長様から、新製品に興味があるとのお言葉を頂戴いたしました。

    、あらためて貴社にうかがい、詳しい説明をさせていただきたいと存じます。今月下旬で、ご都合のよい日時をご指定ください。

傍線部に適切な言葉を入れてください。出だしはさきほどの事例とそっくりなのですが、今回は「さて」は当てはまりません。前置きと本題が連動しているからです。前置きのなかにある、○○部長からの言葉を受けて、本題の日程調整を行っていますよね。「さて」は、話題を切り替えるときには有効ですが、このように話題が継続しているときには使えないのです。このケースでの、私のお勧めは「つきましては」です。

新商品は、弊社研究所の技術を結集したもので、数多くの特許が含まれています。性能は競合品をはるかに上回ります。

    、価格についても既存品並みとなっており、たいへんコストパフォーマンスの高い商品です。

こちらも、二つ目の文を入れ替えました。傍線部には「また」を入れても特段の違和感はないのですが、「さらに」を入れると、「性能に加えて、コストパフォーマンスも高い」という新製品の長所をより強調した表現になり、得意先相手に新商品を宣伝するメールにぴったりです。

新商品は、弊社研究所の技術を結集したもので、数多くの特許が含まれています。性能は競合品をはるかに上回ります。

    、価格は従来品より若干高くなりますが、生産性向上により短期間で投資を回収できると考えます。

 今度は「また」も「さらに」もしっくりきません。「一方で」が良いと思います。二つの本題があって、それを並列するなら「また」、二つの本題が直列であるなら「さらに」、二つの本題を対比するなら「一方で」、という感じで使い分けてください。

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