2021年5月3日月曜日

第3章 美しく文章を構成するノウハウ(5)

 要約のしかた

要約とは、文章の要点をとりまとめることです。要約を行うには、文章の読解力と文章の作成力の双方が求められますので、国語の試験でもよく出題されます。字数は200字程度が一般的です。40字の文なら5つ、50字の文なら4つ以内にまとめなければいけません。さらに、字数が減るほど要約の難度は上がります。ここでは、共通事例について、200字、100字、50字の3種類の要約を行って、そのコツをお伝えしていきます。

まずは第一段落です。段落のなかから要点を抜き出す際、着目するのは最初と最後です。文章全体と同様に、大事なことは最初と最後に書かれている確率が高いからです。この段落では、最初の「少子化の影響により、日本の人口が減少している」が要点であることは言うまでもありません。もう一つ、要約の字数に余裕があるならば、少子化の原因も取り上げておきたいと思います。

 少子化により、日本の人口が減少している。数十年後には、現在の半分になってしまうという予測もある。単純に考えれば、二人の親から二人の子供が生まれて、ようやく人口が保たれることになる。ご存知のとおり、子供の数の平均は、二人を大幅に下回っている状況なのだ。少子化にはさまざまな原因が想定される。結婚しない、結婚しても子供を産まないという生き方が定着したこと。女性の社会進出により晩婚化が進んだこと。子供の教育にかかる費用が増えたこと。などなどである。

<要約>

少子化により、日本の人口が減少している。結婚しない、子供を産まないという生き方の定着、女性の社会進出による晩婚化、教育費の増加などが原因である。(72字)

 第二段落では、少子化による人口減少の影響と対策について書かれています。字数を最小限に絞るのであれば「人口減少により、さまざまな負の影響が出てくる」ですが、多少でも字数に余裕があれば、具体的な影響を列挙しておきたいところです。さすがに、対策まで書くと字数が多くなって要約にならないので、「対策が必要である」くらいにしておきます。

 このまま人口が減少すると、さまざまな負の影響が出てくる。多くの企業は、人口減少で縮小する国内市場を相手にしていては、成長することも利益を上げることも難しくなり、これまで以上に海外市場へ目を向けざるを得ない。一方で労働力が不足し、外国からの移民を受け入れないと、あらゆる産業を支え切れなくなるだろう。さらに、社会インフラを維持できない自治体が出てくる。道路、電気、水道などの保守コストに見合うだけの料金収入や税収が得られなくなるからだ。過疎地域から街の中心部への移住を推進する必要があるだろう。社会保障制度が維持できるかどうかも心配だ。少子化の影響で、人口に占める高齢者の割合が増加している。国の借金は世界トップの水準にあり、将来の年金の減額や支給開始年齢の引き上げ、医療保険・介護保険の自己負担の増額などが避けられない。

<要約>

人口減少により、国内市場の縮小、労働力不足、社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるなどの負の影響が出てくる。それぞれに対策が必要である。(71字)

 第三段落は、少子化対策が遅々として進んでいないこと、その原因が投票率の高い高齢者に不人気な政策であることを述べています。この二つのことがらを要約に入れればよいでしょう。

 こうした由々しき事態にもかかわらず、国会や政府の動きはにぶい。少子化対策として保育園の増設など、子育て世代支援の政策は打ち出されているが、効果が出るにしても時間がかかる。年金や医療・介護保険の見直しは遅々として進んでいない。なぜなら、こうした政策は選挙の票に結びつかない、どころか、選挙の票を減らしかねないからである。選挙のたびに報道される、世代別の投票率を思い出していただきたい。高齢層ほど高く、若年層ほど低い。すなわち、高齢者に不人気な政策は、どの政党にとっても選挙対策上とりにくいと考えられるのだ。

 <要約>

少子化対策に関する国会や政府の動きはにぶい。選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策はとりづらいからである。(53字)

第四段落の要約は、「3.結論が先」で実施済です。次のとおりでした。

<要約>

将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(48字)

  それでは、四つの段落の要約をつなげてみます。

 少子化により、日本の人口が減少している。結婚しない、子供を産まないという生き方の定着、女性の社会進出による晩婚化、教育費の増加などが原因である。人口減少により、国内市場の縮小、労働力不足、社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるなどの負の影響が出てくる。それぞれに対策が必要である。少子化対策に関する国会や政府の動きはにぶい。選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策はとりづらいからである。将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(244字)

 50字ほどの字数オーバーが発生しました。どこを削ればよいでしょうか。10字~20字程度のオーバーならば、文中の言葉を字数の少ない表現に変更することで対応できるのですが、50字ともなると本格的な削減が必要です。このケースでは、「少子化の原因」「人口減少の影響」について、それぞれ複数の例示がなされています。ここが着目点です。

少子化の原因(45字): 結婚しない、子供を産まないという生き方の定着、女性の社会進出による晩婚化、教育費の増加など

人口減少の影響(38字): 国内市場の縮小、労働力不足、社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるなど

これを半分にすれば40字程度を減らすことができます。少子化の原因の方は、文頭からの3つの原因を別の言葉を使って短く表現することで対応しましょう。

結婚や出産に関する考え方の変化、教育費の増加など(24字)

人口減少の方は、例示の数を減らすしか手がないようです。後に出てくる、高齢者に不人気な政策に直結するものを残すべきです。

社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるなど(24字)

残り9字まできました。あと一息です。

少子化により、日本の人口が減少している。結婚や出産に関する考え方の変化、教育費の増加などが原因である。人口減少により、社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるなどの負の影響が出てくる。それぞれに対策が必要である。少子化対策に関する国会や政府の動きはにぶい。選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策はとりづらいからである。将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(209字)

ここから先は、文のつながりを確認しながら、細かい表現の調整で字数を減らしていきます。最初からチェックしていくと、二つ目の文と三つめの文で、それぞれ少子化の原因と人口減少の影響を例示していますが、どちらも「~など」という表現になっています。同じ表現が続くのはクールではないので、三つ目の文では「~といった」に変更することにします。(1字増加)「それぞれに対策が必要である」という文と、「少子化対策に関する国会や政府の動きはにぶい」という文を統合することにより、若干の字数の節約ができそうです。(10字削減)最後の文で、「目をそむけることなく」という表現を逆にして、「直視し」に変更します。(8字削減)これで、200字に収まりました。

少子化により、日本の人口が減少している。結婚や出産に関する考え方の変化、教育費の増加などが原因である。人口減少により、社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるといった負の影響が出てくる。それぞれに対策が必要だが、国会や政府の動きはにぶい。選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策はとりづらいからである。将来の問題を直視し、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(192字)

では、次にこの要約をさらに100字にまで縮めます。少子化の原因と人口減少の影響の例示は削らざるをえません。削除するとこんな感じになります。

少子化により、日本の人口が減少している。将来、さまざまな負の影響が出てくる。対策が必要だが、国会や政府の動きはにぶい。選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策はとりづらいからである。将来の問題を直視し、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(133字)

あと、30字ほどです。字数を減らすには、複数の文を合体させる手法があります。二つ目の文で負の影響について説明し、三つめの文でその対策について述べ、さらに四つ目の文で対策が進まない理由が書かれています。つながりの強いこの三つの文を合体します。また、最後の文で、本題ではない「将来の問題を直視し」を削除します。

 少子化により、日本の人口が減少している。負の影響への対策が必要だが、選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策なので、国会や政府の動きはにぶい。次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(100字)

 目標達成しました。200字での要約と見比べてください。200字の方は各段落の要約を含んでいますので、全体の構成まで把握することができますが、100字まで減らすと、結論とそこにいたる経緯しか記述されていません。

これをさらに50字まで減らすならば、最後の結論の文は生かすとして、それ以外はバッサリ切り捨てる必要があります。結論に至る経緯をどこまで短くできるかが勝負になります。少子化や人口減少に触れるのはあきらめるしかありません。高齢者に不人気な政策であることも、説明に字数を要するのでカットします。選挙の票に関する記述だけを残し、100字への要約の際に削除した「将来の問題を直視し」を復活させるのがよいでしょう。

 選挙の票に囚われず、将来の問題を直視し、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(50字)

 このように、要約の度合を高める過程では、言葉を削るだけではなく、別の言葉に置き換えるという技も必要になります。

今回は、200字から100字、50字へとだんだんに字数を減らしていきましたが、この方法は確実ではあるものの効率的とはいえません。通常は、目標とする字数に向けてダイレクトに要約を行います。そのコツをまとめて、本項目を終わることにします。

<共通のコツ>

① 各段落から要点となる文を抜き出してきて、それをつなげるのが基本である。段落の最初と最後に着目する。

② 関連がある複数の文を統合することにより字数を減らすことができる。その際、文が長くなり過ぎないように注意すること。

③ 例示の数を絞り込むことにより字数を減らすことができる。例示を別の言葉に置き換える、代表的な例だけを記載するなどの方法がある。

④ 10字から20字程度の字数削減は、同じ意味で字数の少ない言葉への置き換え、文末の表現の変更などで対応する。最後の手段は漢字を使用することによる削減、読点の削除による削減である。

<100字への要約でのコツ>

① 文章全体を要約することはあきらめる。「結論に至る経緯の説明」と、「結論」の二つの文の構成を基本とする。

② 「結論」の文を先に作成し、残りの字数で「経緯の説明」を収めるように工夫する。

<50字への要約でのコツ>

① 「結論に至る経緯の説明」と、「結論」を含んだ一つの文にまとめるのが基本。結論が短ければ二つの文にすることも可能である。

② 「経緯の説明」は、文中の表現をそのまま使用することは字数のうえで難しい。別の短い言葉に置き換える。

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