文頭と文末に注意する
ぼくは、はるか遠くの小惑星へ旅をした「はやぶさ」のニュースを聞いて、宇宙に興味を持ちました。ぼくは、おとなになったら宇宙飛行士になりたいと思います。ぼくのお父さんは、自動車のエンジンを開発する技術者です。ぼくは、しっかりと勉強をして、お父さんのような技術者になりたいと思います。自分の作ったロケットで宇宙を探検するのがぼくの夢です。ぼくは、新しい星をみつけて、「はやぶさ」のように、かがやく石を地球に持ち帰りたいと思います。
小学生の作文をまねしてみました。小学生の多くは「ぼくは思います病」にかかっています。ぼくは(私は)で始まり、思いますで終わる文。確かにこれが作文の基本です。しかし、気を付けないと、この病気は体のなかに巣食って、大人になっても症状が現れ続けることがあります。
何はともあれ、作文を添削しておきましょう。この例は6つの文から構成されています。その全てに「ぼく」という言葉が現れています。まず、6つの文の主語を確認します。
①
ぼくは、はるか遠くの小惑星へ旅をした~
②
ぼくは、おとなになったら~
③
ぼくのお父さんは、自動車の~
④
ぼくは、しっかりと勉強をして~
⑤
宇宙を探検するのが~
⑥
ぼくは、新しい星をみつけて~
セオリーとして、複数の文で同じ主語が続く場合、2番目以降の文では主語を省略することができます。従って、②の「ぼく」は迷わずカット。③の「ぼくのお父さん」は、主語が変わったので省略できません。あとは④と⑥の「ぼく」ですが、主語として連続はしていないものの、文脈から主語を読み間違えるおそれがないのでこれもカットできるでしょう。結果をみてください。
ぼくは、はるか遠くの小惑星へ旅をした「はやぶさ」のニュースを聞いて、宇宙に興味を持ちました。おとなになったら宇宙飛行士になりたいと思います。ぼくのお父さんは、自動車のエンジンを開発する技術者です。しっかりと勉強をして、お父さんのような技術者になりたいと思います。自分の作ったロケットで宇宙を探検するのがぼくの夢です。新しい星をみつけて、「はやぶさ」のように、かがやく石を地球に持ち帰りたいと思います。
だいぶすっきりしました。次に文末をチェックしましょう。
①
興味を持ちました。
②
宇宙飛行士になりたいと思います。
③
技術者です。
④
技術者になりたいと思います。
⑤
ぼくの夢です。
⑥
持ち帰りたいと思います。
文頭の主語と同様に、文末も同じ文言が繰り返し出現していたら、それを別の文言に変更したり、省略したりすることをお勧めします。事例では、文末に「思います」が三回登場しています。この程度の長さの文章であれば、「思います」は一か所に留めるのが望ましいでしょう。
話が少々横道にそれますが、そもそも、「思います」には二つの用法があります。
(A) 私は、散り際の桜が美しいと思います。
(B) 私は、桜が間もなく散ると思います。
(C) 私は、美しい桜を見に行きたいと思います。
ここでは、三つの例を示しましたが、(A)と(B)は「思います」の前が形容詞か動詞かの違いはありますが同じ用法です。「桜が美しい」「桜が間もなく散る」と、頭の中に描いているのです。これが「思います」の正しい用法です。
そして、(C)の「~したい」の後にくる「思います」が曲者なのです。「思います」を外してみてください。「私は、美しい桜を見に行きたい」、これで立派な文です。実は、「思います」をつけてもほとんど意味は変わりません。ほんの少しの違いです。「見に行きたい」というのも自分の「思い」で、さらにその後に「思います」を重ねることによって、私たちは「願望」×「願望」=「実現したいけれどできるかどうかわからない願望」を表現しているのです。
小学生の作文の事例でも、三つの「思います」は全てこの(C)の用法に該当します。何気なく文章を書くと、大人でも(C)の「思います」はしょっちゅう現れるのです。自分の気持ちや考えを記述する際に、断定的にならず、たいへん便利だからです。会話のなかでも、「思う」「思います」は欠かせぬ文末表現です。
「○○の課題を解決するために、△△の施策を実行したいと思います」
会議の場、上司への報告の場で、このような言い方をしますよね。心当たりはありませんか。なぜ、「実行します」と言い切らないのでしょう。もちろん、実行するつもりはあるのですが、言い切ってしまえば当然に責任が生じます。深層心理において、誰もが責任を逃れたいのです。「実行したいけれど、もしできなかったらごめんなさい」、それを文末の「思います」に込めているのです。
では、事例には「思います」が三つありますが、どれを残すべきでしょう。(C)の用法ですから、全てカットしても文意が変わることはありませんが、「思います」に込められた気持ちからすれば、実現困難な願望の後ろの「思います」を残すのがよいと思います。(この文末の「思います」は(A)の用法です)
では、事例には「思います」が三つありますが、どれを残すべきでしょう。(C)の用法ですから、全てカットしても文意が変わることはありませんが、「思います」に込められた気持ちからすれば、実現困難な願望の後ろの「思います」を残すのがよいと思います。(この文末の「思います」は(A)の用法です)
宇宙探検が「ぼく」の夢で、地球に石を持ち帰るのが一番難しそうですから、最後の⑥の文末の「思います」を残すことにします。
ぼくは、はるか遠くの小惑星へ旅をした「はやぶさ」のニュースを聞いて、宇宙に興味を持ちました。おとなになったら宇宙飛行士になりたいです。ぼくのお父さんは、自動車のエンジンを開発する技術者です。しっかりと勉強をして、お父さんのような技術者になりたいです。自分の作ったロケットで宇宙を探検するのがぼくの夢です。新しい星をみつけて、「はやぶさ」のように、かがやく石を地球に持ち帰りたいと思います。
こんどは、二番目と四番目の文末が、「なりたいです」で重複してしまいました。見た目もよくないし、声に出して読んでみても違和感があります。こうした場合は、前節の「短い文を心がける」には反しますが、後ろの文と連結して文末を変更してしまうのが早道です。ただし、連結した文が2行以内に収まっているかどうかの確認をお忘れなく。
ぼくは、はるか遠くの小惑星へ旅をした「はやぶさ」のニュースを聞いて、宇宙に興味を持ちました。おとなになったら宇宙飛行士になりたいです。ぼくのお父さんは、自動車のエンジンを開発する技術者です。しっかりと勉強をして、お父さんのような技術者になって、自分の作ったロケットで宇宙を探検するのがぼくの夢です。新しい星をみつけて、「はやぶさ」のように、かがやく石を地球に持ち帰りたいと思います。
本節では、「ぼくは思います」病への対策を中心に事例を紹介しました。文末の細かい調整テクニックについては第2章で解説します。
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