2020年6月21日日曜日

第1章 美しい文章を書くための鉄則(4)

しっかり読み返す

 私は、15年間にわたって情報処理技術者試験の試験委員を務めました(日進月歩のITなので、寄る年波を感じて十年前に後進に道を譲りました)。これは、毎年数十万人が受験する、国家試験のなかでも規模の大きい試験です。試験は専門分野ごとに分かれており、私はデータベース設計技術者の資格を認定する「データベーススペシャリスト試験」の問題作成の責任者でした。試験問題では、事例をもとに受験者にデータベースの設計をしてもらいます。そのため、仮想の企業を設定して、組織や取引先、業務の流れやそこで使用されている情報の内容など、長いものでは10ページ以上に及ぶ状況説明を行います。この記述があいまいだと正解が一つに定まりません。また、受験者に無用の負担を強いないために、文章が「わかりやすく」「読みやすく」「無駄がない」よう心がける必要があります。

私はこの問題作成の経験のなかで、美しい日本語の重要性をいやというほど思い知らされました。読点の位置ひとつで、文意が全く異なってしまうこともあるのです。誤字脱字も許されない試験問題ですので、完成までには何重ものチェックが行われます。問題の作成者、責任者、文章チェック専門の委員がよってたかって、それぞれ数回ずつの読み返しを行うのです。それでも印刷してからミスに気が付くことがあります。最後の最後、完成が近づいてから修正した箇所が危ないのです。初期に修正した箇所は何度も何度も多数の目でチェックされますが、最後の方だとその回数が少なくなるからです。やむなく正誤表を作成して、試験当日の会場で配る事態になったこともありました。気付くのが事後だったら、出題ミスとなって受験者や関係者に多大な迷惑をかけるところでした。春・秋に実施される試験の当日は、受験者や専門学校から問題に関する指摘が来やしないかと、毎回びくびくしていたものです。

私たちが日常取り扱う日本語は、国家試験問題ほどの正確さを要求されるものではありませんが、手を抜くことなく、自分が書いた文章は必ず読み返してください。読み返しの作業イコール「てにをは」や誤字脱字のチェックのことと思い込んでいる人がいます。それは誤りではありませんが、数ある目的のなかの一つに過ぎません。私は、少なくとも二回、重要な文書については五回の読み返しをお勧めしています。その一回ごとに目的が異なります。

1回目は、一つひとつの文の正しさ(美しさ)を確認します。「わかりやすく」「読みやすく」「無駄がなく(ただし、伝えたいことが漏れなく)」書かれているかどうかです。

2回目は、前後の文とのつながりを確認します。一つの文は1~2行程度が理想ですから、6行進んでは4行戻るという感じで読み進めていくことになります。前後の文とのつながりについては第3章で詳しく解説しますが、内容と形式における重複をなくすことが主な目的です。「わかりやすさ」「読みやすさ」に大きな影響を与えます。

3回目は、文章全体の構成を確認します。文頭や文末に重複はないか、改行や段落の設定は適切か、といった形式面と、結論が明確に示されているか、矛盾が生じていないかなどの内容面の双方からチェックします。文章が10行(400字)程度までであれば、この3回目の読み返しは省略しても構いません。

4回目に、ようやく「てにをは」と「誤字脱字」のチェックです。一般の文書では、この作業はあまり重視しないでよいと思います。もちろん、誤字だらけの文章では書いた人の知性が疑われますが、昨今の文章の大部分はパソコンと文書作成ソフトを使用して書かれるものであり、誤字脱字のほとんどは入力ミス・変換ミスです。最近ではソフトも進化して、単純ミスを指摘してくれるようになっています。世に広く配布される出版物や広告、さきほどの試験問題のような類であれば、こうした校正作業に時間を費やしてでもミスをなくす必要がありますが、特定の人にあてたメールや社内文書であれば多少のミスは許されます。そもそも文章を作成する際に、ミスのないよう気を配り、生産的でないチェック作業は極力軽減しましょう。

最後の5回目の読み返しは、少し時間をおいて、できれば翌日に行います。4回目までは自分の書いた文章をより良いものにするという観点で読み返しましたが、5回目は他人が書いた文章のつもりで読み返します。提案書であればお得意先のつもりになって、社内文書であれば上司のつもりになって読みましょう。独りよがりの文章になっていませんか。思い入れの強い文章ほど、一晩寝かせて、冷静になってから読み返すことが望ましいのです。

 なお、全ての文書について五回も読み返す必要はありません。最大五回です。読み手がさらりと読み流してしまうような内容であれば二回で十分でしょう。
では、実例にもとづいて読み返しとそこでの作業内容を確認してみます。

事例(私の長男が、就職活動において、ある企業のエントリーシートに記入した文章です)
問:あなたが今までに最も力を入れて取り組んだ事。また、それによって学んだ事をご記入ください。
(字数制限400字)

 私が最も力を入れたことは、母校バドミントン部のコーチです。私は高校生のときに、十年続けてきた野球を辞め、バドミントン部に入部しました。私は「野球を続ければよかった。とは言いたくない」と強く思い、バドミントンに打ち込みました。大学入学後、コーチに就任し、真剣に練習に取り組んでもらいたくて、厳しい口調で指導しました。しかし、部は思い通りの雰囲気にはならず「なぜ部員は分かってくれないのか」と悩んだことを覚えています。
私はこの課題に対して自分なりに考え、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導しました。リーダーシップを発揮して人に物を伝えるためには、口で伝えるだけではなく、率先垂範の精神で、模範となるように行動で示す必要がある事を学びました。今まで、チームのキャプテンや、学部代表の委員会など、人の先頭に立つことが多かった私にとって、自らに欠けていた物が見えた貴重な経験だったと感じています。 (398字)

この文章を書きおろした息子から、チェックを依頼されました。快く引き受けてしまうのが親心というものです。息子のために弁護しておきますが、いまどきの大学生が作成した文章で、かつ推敲前としてはまあまあの水準ではないかと思います。でも、直すところはたくさんありそうです。

1回目の読み返し

 それでは1回目ということで、文を一つひとつ確認していきましょう。


原文) 私が最も力を入れたことは、母校バドミントン部のコーチです。
この事例ように、問いに対して答える場合には、問いで使われている言葉にきちんと対応した文になっているかを確認する必要があります。問いのなかでは、「あなたが今までに最も力を入れて取り組んだ事」とあります。これに合わせます。
また、「事は何ですか」と問われているのに対して「コーチです」と答えています。コーチは「事(こと)」でしょうか。この文脈での「コーチ」は、人、あるいはその役割を指しています。適切な答え方とはいえません。直してみましょう。
修正後) 私が今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。

 原文) 私は高校生のときに、十年続けてきた野球を辞め、バドミントン部に入部しました。
事実がきちんと記述されています。でも、十年続けてきた野球をなぜ辞めてしまったのでしょう。読み手は疑問を持ちます。その理由を書いておく必要がありますね。本人にとって自明であっても、読み手にとってはそうではない、ということがしばしばあります。十年は期間を表しているので「十年間」に直します。
修正後) 私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。

原文) 私は「野球を続ければよかった。とは言いたくない」と強く思い、バドミントンに打ち込みました。
まず、かぎ括弧の中に注目してください。何について強く思ったかを示すためにかぎ括弧が用いられています。ここでの問題点を理解しやすくするために、文の一部分だけを取り出します。
◎ 私は「野球を続ければよかった。とは言いたくない」
ここだけを読めば、かぎ括弧の位置が不適切であることがわかります。言いたくない言葉だけにかぎ括弧をつけるべきですね。
◎ 私は「野球を続ければよかった」とは言いたくない。
これが正しいかぎ括弧の使い方です。でも、これだと元の文にしたときに、
◎ 私は「野球を続ければよかった」とは言いたくないと強く思い、バドミントンに打ち込みました。
これだと原文でかぎ括弧を使った目的である、何について強く思ったかを示していません。数式っぽく表現すると、(((野球を続ければよかった)→とは言いたくない)→と強く思った。)という感じです。数式に小括弧()、中括弧{}、大括弧[]があるように、かぎ括弧にも二重括弧『』があります。
◎ 私は「『野球を続ければよかった』とは言いたくない」と強く思い、
こうすれば数式と同じですね。正解です。でも、見た目にも、声に出して読んでみても、ぎくしゃくした文になってしまいました。正しい文ではありますが、美しい文ではありません。そもそも原文の、二重のかぎ括弧になってしまう書き方に問題があったのです。そこで、二重かぎ括弧のいらない表現に変更します。
修正後) 私は「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込みました。
原文とほぼ同意の文となっています。正しく、美しい文です。ここに辿り着くのに随分寄り道をしてしまいましたが、この試行錯誤が美しい日本語の腕を上げるために役立ちます。

原文) 大学入学後、コーチに就任し、真剣に練習に取り組んでもらうよう、厳しい口調で指導しました。
この文を読んで、コーチに就任したのは自ら立候補したのか、頼まれて引き受けたのかが気になりました。頼まれたとすれば、高校時代の活動(技術や取り組み姿勢、リーダーシップなど)に高い評価を得ていたことの証になるので、エントリーシートの自己アピールとしてはぜひ記載しておきたい事実です。本人に確認したところ、顧問の先生からの依頼だった、とのことでした。また、「真剣に練習に取り組んでもらうよう、厳しい口調で指導した」というところですが、「真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導した」とした方が意図をすんなり伝えられます。
修正後) 大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。

原文) しかし、部は思い通りの雰囲気にはならず「なぜ部員は分かってくれないのか」と悩んだことを覚えています。
思い通りの雰囲気にならないとはどういうことでしょう。自分がそうであったように、真剣に練習に取り組んでほしいと思っているのに、後輩部員は厳しい指導を嫌がってついてきてくれない、ということです。これをストレートに書いたほうがわかりやすい。「悩んだことを覚えている」という表現も冗長です。
修正後) しかし、後輩部員は厳しさを嫌がってついてきてくれず、私はさんざん悩みました。

原文) 私はこの課題に対して自分なりに考え、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導しました。
「私はこの課題に対して自分なりに考え」という文言に違和感があります。課題に対するのは解決策です。課題という言葉を使うのであれば、「私はこの課題に対する自分なりの解決策を考え」という感じでしょう。また、考えるのは自分自身ですから、「自分なり」という言葉は余分です。
文末の「自身も一部員という意識で指導しました」については、指導方針を変更したことが明確になるよう、「自身も一部員という意識で指導することにしました」に変更します。
修正後) 私はこの課題に対する解決策を考え、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。

原文) リーダーシップを発揮して人に物を伝えるためには、口で伝えるだけではなく、率先垂範の精神で、模範となるように行動で示す必要がある事を学びました。
この文は指摘事項が山盛りです。まず、最初の読点まで。人に伝えるのは「物」でしょうか。違います。ここで後輩に伝えたいのは「思い」です。また、次の読点までに、「伝える」という言葉が再度登場して重複感があります。さらに、「口で伝える」という表現については、後ろでそれと対比されているのが「行動で示す」ですから、「口」よりも「言葉」の方が適切です。文の最後の「模範となるように行動で示す」は、「模範となる行動を示す」の方がすっきりした表現です。
修正後) リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。

原文) 今まで、チームのキャプテンや、学部代表の委員会など、人の先頭に立つことが多かった私にとって、自らに欠けていた物が見えた貴重な経験だったと感じています。
さて、貴重な経験をしたのは過去のことですから、「今まで」は不適切です。「それまで」に変更しましょう。「学部代表の委員会」は人の集まりを表しています。ここでは個人を指しているので「学部代表の委員」が正解です。自らに欠けていたのは「物」でしょうか。掛け声だけでなく、率先垂範の姿勢が大事だということを学んだのですから、「姿勢」という言葉が適当だと思います。また、「姿勢」は「見える」ものではなく「知る」ものですね。
最後に、文末の「感じています」が必要かどうかです。ここでもう一度問いを思い出してみましょう。「あなたが今までに最も力を入れて取り組んだ事。また、それによって学んだ事をご記入ください」です。あくまでも事実を聞いているのであって、感想を聞いているのではありません。したがって、「感じています」は不要と判断します。
修正後) それまで、チームのキャプテンや、学部代表の委員など、人の先頭に立つことが多かった私にとって、自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。
 これで、ようやく1回目の読み返しが完了しました。それでは全体を確認してください。

私が今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。私は「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込みました。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。しかし、後輩部員は厳しさを嫌がってついてきてくれず、私はさんざん悩みました。
 私はこの課題に対する解決策を考え、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。それまで、チームのキャプテンや、学部代表の委員など、人の先頭に立つことが多かった私にとって、自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。
(405字)

2回目の読み返し

 では、2回目の読み返しに入ります。2回目は、前後の文とのつながりを確認します。


第1文~第3文
私が今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。私は「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込みました。
 三つの文ともに「私」が主語になっています。前述したように、連続している場合には省略が可能です。どれを省略するのがよいでしょう。もう一度、問いを思い出してください。「あなたが今までに最も力を入れて取り組んだ事。また、それによって学んだ事をご記入ください」です。「あなたが」と聞かれているのですから、答えが「私が」になるのは当たり前ですよね。第1文の「私が」をカットしましょう。第2文の「私は」は残すことにします。第3文は第2文との間で、強い連続性を持っています。「バドミントン部に入部し、『野球を辞めたことを~』」のように、一つの文にまとめることも可能です。このようなケースは、主語を省略しても意味を取り違えられることはまずありません。
 主語以外は、特に問題箇所はないようです。
修正後) 今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込みました。

第2文~第4文
私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込みました。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。
今回は文末に着目してください。「しました」「ました」「しました」です。同じ文末が続くと、文章が読みづらくなってきます。真ん中の文の「ました」を変更することにしましょう。
修正後) 私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだのです。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。
さて、読者の皆さんも慣れてきたことと思いますので、この辺りから、スピードを上げて文を二つずつ進めます。

第3文~第6文
「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだのです。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。しかし、後輩部員は厳しさを嫌がってついてきてくれず、私はさんざん悩みました。私はこの課題に対する解決策を考え、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。
 ここでもやはり「ました」の三連発です。過去のことを記述すると自然にこうなってしまいます。真ん中の「ました」を変更することにしましょう。今回は、文末を変更するのではなく、次の文と組み合わせてみます。「悩みました」を後ろの文に組み込むことにより、悩む(課題)→考える(解決策)という流れが明確になります。もはや、課題や解決策という言葉は不要でしょう。また、第4文・第5文で「後輩」「後輩部員」という言葉が出てきます。重複しているので、後者を「彼ら」に変更します。
修正後) 「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだのです。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれません。私はさんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。

第5文~第8文
しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれません。私はさんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。それまで、チームのキャプテンや、学部代表の委員など、人の先頭に立つことが多かった私にとって、自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。
一つひとつの文を見ている限りでは気付かないことがあります。第7文・第8文(最後の二つの文)をまとめてよくよく読み返してください。文脈におかしなところはありませんか。「率先垂範という自らに欠けている姿勢が見えた」という流れは問題ありません。しかし、「人の先頭に立つことが多かった私にとって」とはどういう意味でしょう。先頭に立つことが多かったのに、そこではリーダーシップを発揮できていなかった(率先垂範の必要性を理解できていなかった)という反省が込められている、と解釈します。ならば、その意図が素直に伝わるような表現にすべきです。
修正後) しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれません。私はさんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。それまで、チームのキャプテンや、学部代表の委員など、人の先頭に立つ機会があったのに気付いていなかったのです。自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。
 2回目の読み返しで完成した文章は次のとおりです。

今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだのです。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれません。
私はさんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。それまで、チームのキャプテンや、学部代表の委員など、人の先頭に立つ機会があったのに気付いていなかったのです。自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。
(395字)

 3回目の読み返しは、文章全体を読んでその構成をチェックします。文章の構成という観点では、まだ若干の手直しの余地がありそうですが、そのノウハウについては第3章で解説しますので、とりあえず良しとしておくことにしましょう。
さて、ここまで行きつ戻りつ、手間のかかる作業を重ねてきた印象ですが、実際には慣れてくれば1回目と2回目の読み返しを同時に行って効率を上げることができます。1回目の修正箇所を、2回目で再度見直したりしていますので、同時に行えば大幅な効率アップです。慣れるまでは、我慢して手順に忠実に作業してください。その積み重ねがスキル向上につながるからです。

 4回目の読み返しは「てにをは」や誤字脱字のチェックですが、ここでは省略することにします。


 そして、最後の5回目の読み返しは、頭を冷やして、読み手の立場で行うのでした。翌日、この文章を読み返した私は、ふと気が付きました。息子がこれまで最も力を入れて取り組んだのがバドミントンだったとは。高い学費を払って私立大学までやったのに、勉強や研究ではないのか。少々腹を立てた私は息子に全面書き替えの指令を出しそうになりました。おっと、危ない。読み手の立場を忘れていました。これはエントリーシートですから、読むのは企業の人事担当者です。決して真面目な学生の模範解答を求めているわけではありません。その人にしかできない、個性に溢れた回答を期待しているはずです。私は親としての気持ちを抑えて、この文章に合格点を与えることにしました。


 息子の結果がどうだったか、ですか?おかげさまで、エントリートシートは無事選考を通過。この企業では高倍率の面接を突破できませんでしたが、志望順位が比較的高かった企業に就職が決まって偉そうな顔をしていますのでご安心ください。

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