「ののの」に注意
① 私は都心の一等地のビル街の片隅の公園のベンチに腰をおろして一息ついた。
② 私の買った車は中古車だが彼のは新車だ。二台並んだ車の新しい方が彼のだ。
③ 私の父の本の見開きには、著者の直筆のサインがある。
「ののの」文の実例です。①の文では5連続で「の」が使用されています。さすがに5連続はめったにありませんが、一般的な文章のなかでも3連続はしょっちゅう、たまに4連続が出現します。3連続以上はみっともないので避けるべきと記憶してください。また、②では連続ではないものの、短い二つの文に二つずつ「の」が登場しています。こちらも「の」を減らしたいですね。③も「の」が多いのは同様です。
では、「ののの」文はどのように修正したらよいのでしょう。結果を先にお見せするとこんな感じです。
① 都心の一等地のビル街、その片隅の公園で、私はベンチに腰をおろして一息ついた。
② 私が買った車は中古車だが、彼が買った車は新車だ。二台並んでいるうちで新しい
方が彼の車だ。
方が彼の車だ。
③ 私の父が持っている本、その見開きには著者による直筆で書かれたサインがある。
「の」は、ものすごくたくさんの用法を持つ助詞(てにをは)です。まずはその用法をざっと並べてみましょう。それぞれ、主格だとか連体格などと呼ばれますが、これを知っていても実際に文章を書く際には全く役に立たないので解説は省略します。
A.一律に置き換えられないもの。あとに続く名詞を修飾している。
公園のベンチで一息ついた。
B.「が」に置き換えられるもの。あとに続く動詞・形容詞の主語を表す。
私の買った車は中古車だ。
C.「のもの」「の~(名詞)」に置き換えられるもの。
あとに続く名詞が省略されている。
私の車は中古だが、彼のは新車だ。
D.「で」や「のうちで」「のなかで」に置き換えられるもの。
二台並んだ車の新しい方が彼のだ。
文中に現れる「の」のなかで最も多いのがAの用法です。そして「ののの」文で一番修正が難しいのもAの用法です。先にBCDから片づけてしまいましょう。上述のとおり、Bは「が」に置き換えてしまえば解決です。文の読みやすさからみても、「が」に換えた方が自然なケースが多いと思います。CもDも置き換えが可能です。上のCの例では「彼のは」がどんな名詞の代用となっているかを考えます。「私の車」に対応しているのは明らかですので、「彼の車は」に換えてしまえば終わりです。Dの方は、「で」「のうちで」「のなかで」のうちでしっくりくるものに置き換えてください。この方法にしたがっていけば、②の例文を見直すのは簡単ですね。
では、残ったAの用法ですが、この「の」は、表す意味が一つではなくさまざまなのです。例えば、次のような意味があります。括弧内は「の」をどのような言葉に置き換え可能か(置き換えルール)を示しています。
☆ ものの所有を表す。 「私の本」「会社のお金」 (~が持っている・~が所有する)
☆ 人やものの所属を表す。 「大学の教授」「桜の花」
(~、その~・省略可能な場合も多い)
(~、その~・省略可能な場合も多い)
☆ ものの所在を表す。 「都心の一等地」「公園のベンチ」
(~における・~にある)
(~における・~にある)
☆ 行為を行った人を表す。 「先生の話」「画家の作品」 (~による)
☆ 性質や状態を表す。 「麻のスーツ」「重症の患者」 (性質や状態の内容による)
☆ 人間関係を表す 「あなたの恋人」「私の祖父」 (置き換え困難)
主なものだけ列挙しました。まだまだあるのですが、きりがないのでこのくらいにしておきます。Aの用法の「の」については、この意味を意識し、置き換えルールを適用することにより修正していただきたいのです。①の例文を再掲します。
私は都心の(1)一等地の(2)ビル街の(3)片隅の(4)公園の(5)ベンチに腰をおろして一息ついた。
この文に現れた五つの「の」は、(1)所在、(2)性質・状態、(3)所属、(4)所在、(5)所在を表しています。ルールにしたがって置き換えてみましょう。
私は都心における一等地にあるビル街、その片隅にある公園にあるベンチに腰をおろして一息ついた。
(2)の性質・状態を表す「の」の置き換えは、意味する内容によって変化します。このケースでは、「一等地のビル街」です。何に置き換えるかは、これを文にしてみればわかります。「ビル街は一等地にある」となりますね。したがって、置き換えは「にある」を用いて「一等地にあるビル街」とすればよいのです。「麻のスーツ」は「スーツは麻でできている」ですから「麻でできたスーツ」という感じです。
それにしても、「の」はゼロになりましたが、少々やりすぎたようです。こんどは「にある」が多くなってしまいました。一部を「の」に戻して調整します。
私は都心の一等地にあるビル街、その片隅の公園にあるベンチに腰をおろして一息ついた。
これで終わりにしても良いのですが、文全体をみると主語の「私」と述語の「一息ついた」の間が離れていることが気になります。主語と述語は近くにある方が読みやすいのです。そこで、主語を述語の近くである「ベンチ」の前に持ってくることにします。これで修正完了としましょう。
都心の一等地にあるビル街、その片隅の公園で、私はベンチに腰をおろして一息ついた。
②は用法のところで解説済みですので、次に③をいってみましょう。
私の(1)父の(2)本の(3)見開きには、著者の(4)直筆の(5)サインがある。
この文に現れた五つの「の」は、(1)人間関係、(2)所有、(3)所属、(4)行為者、(5)性質・状態を表しています。このなかで、(1)の人間関係はどうにも「の」以外の言葉への置き換えが困難です。別の見方をすれば、これぞ「の」の本質と言えるのかもしれません。ということで、この「の」はそのままにします。それ以外では、(5)の性質・状態に着目です。さきほどと同様に「直筆のサイン」を文にすると「サインは直筆で書かれている」ですから、「直筆で書かれたサイン」とします。(2)(3)(4)はルールにしたがって置き換えるだけです。これで出来上がり。慣れてくれば比較的単純な作業になります。
私の父が持っている本、その見開きには著者による直筆で書かれたサインがある。
最後に例外をお見せしておきます。一般的には「ののの」文はお勧めできませんが、あえて「の」を多用して文にリズム感を与えるという応用編のテクニックがあります。
あなたの心の中の、あの日の愛の言葉の記憶を、忘れずにいてほしい、いつまでも。
6連続の「の」はいかがですか。日本語はほんとうに奥が深いです。
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