読点は多過ぎず少な過ぎず
読点は、その字のとおり読み手が文を読みやすくするためのものです。難しいのは、句点と違ってどこに打つかという決まりがないことです。私は、文章を書く際はあまり読点の位置を気にしないことをお勧めします。あとで、文章を読み返す際(1回目ですね)に気を配ればよいのです。
欧米アジアからたくさんの外国人観光客が日本を訪れておりその経済効果が期待されているが本日のニュースで解説者が爆買いしているのは中国人でそれ以外は名所の観光が主目的だと述べていた。
さて、みなさんが文章を読むときに、一行に読点が一つもない文は非常に読みづらい、と感じるはずです。声に出してみるとよくわかります。周囲に人がいて声を出すのがはばかられる場合は、読み上げるつもりで目で追っていただくことでも構いません。一行を休みなく、スピードを緩めず読み通すのは結構骨が折れます。
それではどこに読点を打てばよいのでしょう。「読点を打つのは文節のあとなので、そのなかから選べばよい」と言う人がいました。これは間違いではありませんが、適切な方法ではありません。
念のため、「文節」の意味を確認しておきましょう。文節とは、文の構成要素です。文を言葉として不自然にならない最小のまとまりまで区切ったものを指します。実際に例文を文節で区切ってみると、
欧米アジアから① たくさんの② 外国人観光客が③ 日本を④ 訪れており⑤ その経済効果が⑥ 期待されているが⑦ 本日の⑧ ニュースで⑨ 解説者が⑩ 爆買いしているのは⑪ 中国人で⑫ それ以外は⑬ 名所の⑭ 観光が⑮ 主目的だと⑯ 述べていた。⑰
こんなにたくさんの文節に分かれます。その一つひとつに読点を打つべきかどうか、しらみつぶしに調べていくというのは、現実的ではありませんよね。読点を打つ位置については、厳格な基準はないものの、原則を列挙することができます。
A.文中の区切り。
① 雨がやんで雲間から日が差したら、気温が急に上昇した。
② 大雨による堤防の決壊で被害を受けた地域は、川底より標高が低かった。
③ 私は、大雨による堤防の決壊で被害を受けた地域を訪れた。
④ 明日は大雨になるだろうと、予報士が言った。
① 雨がやんで雲間から日が差したら、気温が急に上昇した。
② 大雨による堤防の決壊で被害を受けた地域は、川底より標高が低かった。
③ 私は、大雨による堤防の決壊で被害を受けた地域を訪れた。
④ 明日は大雨になるだろうと、予報士が言った。
B.接続詞、感嘆詞など、独立した言葉のあと。
しかし、読点を打っても文はまだ読みづらいものだった。
ああ、どうすれば読みやすい文になるのだろう。
しかし、読点を打っても文はまだ読みづらいものだった。
ああ、どうすれば読みやすい文になるのだろう。
C.列挙や繰り返しのあいだ。
昭和の三種の神器と呼ばれたのは、テレビ、冷蔵庫、洗濯機だ。
明るく、明るく、元気よく、毎日を過ごしていこう。
昭和の三種の神器と呼ばれたのは、テレビ、冷蔵庫、洗濯機だ。
明るく、明るく、元気よく、毎日を過ごしていこう。
D.会話のかぎ括弧の前。かぎ括弧を省略した場合のかぎ括弧の位置。
容疑者は、『身に覚えのないことです』と供述した。
刑事は、全てを正直に話すように、とうながした。
容疑者は、『身に覚えのないことです』と供述した。
刑事は、全てを正直に話すように、とうながした。
E.倒置法を用いた場合。(倒置法の詳細については第2章で解説)
とうとうと流れる、悠久の大河が。
たとえようもなく美しい、春の野の花は。
とうとうと流れる、悠久の大河が。
たとえようもなく美しい、春の野の花は。
E.文意を明確にする、誤解を防ぐため。
私はじっくりと、本を読んでいる乗客を見まわした。
(じっくりとしているのが、私なのか本を読んでいる乗客なのかを明確にする)
私はじっくりと、本を読んでいる乗客を見まわした。
(じっくりとしているのが、私なのか本を読んでいる乗客なのかを明確にする)
およそ、こんなところでしょうか。B~Eは条件がかなり明確ですが、Aはあいまいな条件です。文中の切れ目とは何か、Aの例文で確認していきましょう。
① 雨がやんで雲間から日が差したら、気温が急に上昇した。
さて、この文の構造を考えてください。どちらも、複数の主語の述語が直列に並んでいます。第1章の「2.短い文を心がける」で解説したとおり、こうした文は分割ができるのでした。
① 雨がやんで雲間から日が差した。すると、気温が急に上昇した。
あたりまえですが、分割可能な位置が読点を打つべき位置となります。
② 大雨による堤防の決壊で被害を受けた地域は、川底より標高が低かった。
こちらは、①とは少々異なります。文の本体は、「地域は川底より標高が低かった」で、それより前はどんな地域かを説明した言葉です。すなわち、「大雨により堤防の決壊で被害を受けた地域」という長い長い主語になっているのです。このように、主語が長い場合にその区切りを明確にするために読点を打つことがあります。
③ 私は、大雨による堤防の決壊で被害を受けた地域を訪れた。
この文は主語は短いのですが、述語である「訪れた」までの間が長くなっています。その間の言葉は、訪れた地域を説明しているのです。このような場合も、文の区切りとして主語の後ろに読点を打っておくと読みやすい文になります。
④ 明日は大雨になるだろうと、気象予報士が言った。
主語の「気象予報士」が後ろに来ている文です。通常の文の構成では、「気象予報士が、明日は大雨になるだろうと言った」ですが、主語と述語の間が離れて読みづらくなることを避けて、主語を述語の直前に移動させたわけです。こうした文では、主語を明確にするために、主語の前に読点を打っておくのがよいでしょう。
ここで事例として、本項目の冒頭にあった例文について、読点を打つべき位置を考えましょう。再掲します。
欧米アジアからたくさんの外国人観光客が日本を訪れておりその経済効果が期待されているが本日のニュースで解説者が爆買いしているのは中国人でそれ以外は名所の観光が主目的だと述べていた。
文の構造を図解すると図2のようになります。
(1)の「欧米アジアからたくさんの外国人観光客が日本を訪れており」「その経済効果が期待されているが」は前置きです。文の本体は(2)「解説者が~と述べていた」で、その内容を示しているのが(3)「爆買いをしているのは中国人で」「それ以外は名所の観光が主目的だ」です。(1)、(2)、(3)それぞれについて、A~Eの原則をあてはめていきます。
(1)と(3)は二組の主語・述語が直列に並んでいますのでA-①を適用します。
(2)は、解説者が述べた(3)の部分をかぎ括弧に入れたつもりになってDを適用し、前後に読点を打ちます。
なお、(1)のなかに「欧米アジア」という言葉がありますが、これは一つの単語ではなく、「欧米」と「アジア」という二つの単語ですので、Cを適用してあいだに読点を打っておきましょう。
今回は図を描いて理屈を突き詰めましたが、慣れてくれば、頭のなかでできる作業と思います。
欧米、アジアからたくさんの外国人観光客が日本を訪れており、その経済効果が期待されているが、本日のニュースで解説者が、爆買いしているのは中国人で、それ以外は名所の観光が主目的だ、と述べていた。
それでは、この項の締めくくりとして、練習問題を一つ。
ア)一行に読点が一つもない文は非常に読みづらい、と感じるのは私だけではない。
イ)一行に読点が一つもない文は非常に読みづらいと、みなさんは感じるだろう。
この二つの文は、前半部は全く同じですが読点の位置が違っています。なぜでしょう。
着目していただきたいのは、「読みづらいと」に続く言葉です。どちらも「読みづらいと感じる」わけですが、(ア)では「感じる」が直後にきているのに対し、(イ)では「読みづらい」の後ろには主語の「みなさん」があります。よって、(ア)ではDの読点の打ち方を素直に適用すればよいのですが、(イ)では主語である「みなさん」を明確にするために、その前に読点を打つ方がよいのです。Dの読点の打ち方よりも、A-④の打ち方を優先したのです。
たかが読点一つ、それも位置を一字ずらすだけのことですが、文の美しさを左右する重要なテクニックであることを、おわかりいただけたでしょうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿