美しい敬語の使い方
怪しげな敬語が世の中にあふれています。不必要な場面で敬語が使われ、かつ間違った使われ方が多くなっています。美しい日本語を書くためには、正しい敬語の使い方を知っておかねばなりません。
ご存知のとおり、敬語には、尊敬語、謙譲語、丁寧語の三種類があります。念のために復習しておきましょう。
A.尊敬語(目上の人の行動について、尊敬の気持ちを込めて使います)
B.謙譲語(目上の人に対して、自分の行動について、へりくだった気持ちを込めて使います)
C.丁寧語(目上の人に限らず、ていねいに接する必要がある際に使います)
以下は、営業マンが見込み顧客へ送付する電子メールを想定した事例です。
先日頂戴しました電子メールを拝読し、貴社のご要望に沿うべく提案を練りました。
添付の資料をご高覧くださいますよう、お願い申し上げます。
必ずや、ご満足いただけるものと確信しております。
練習問題というわけではありませんが、この事例で使用されている敬語を三種類に分類してみてください。
この度は、弊社(B)に提案の機会を賜り(B)、御礼(C)申しあげます(B)。
先日頂戴しました(B)電子メールを拝読し(B)、精一杯貴社(C)のご要望(C)に沿うべく提案を練りました。
添付の資料をご高覧(A)くださいます(A)ようお願い(C)申し上げます(B)。
必ずや、ご満足(C)いただける(B)ものと確信しております(C)。
この、敬語の種類を理解していないと間違った使い方をするリスクが高まります。相手の行動なのか、自分の行動なのかによって、用いる言葉が変わるからです。例えば、「食べる」という動詞を敬語にするとき、相手が食べるのであれば「召しあがる」(尊敬語)、自分が食べるのであれば「いただく」(謙譲語)になります。
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尊敬語 |
謙譲語 |
食べる |
召し上がる |
いただく |
読む |
お読みになる |
拝読する |
もらう |
お受け取りになる |
賜る、頂戴する、いただく |
来る |
いらっしゃる、お見えになる、 |
参る |
訪ねる |
お訪ねになる |
お訪ねする |
尊敬語では「お~になる」、謙譲語では「お~する」となるケースが多いと覚えておいてください。敬語独特の言葉、例えば「召し上がる」を知らない場合は「お食べになる」で、「拝読する」を知らない場合は「お読みする」で代用が可能です。(美しさという点ではレベルが下がりますが・・・)ただし、これは全てにあてはまるわけではありません。「いただく」の代わりに「お食べする」、「賜る」の代わりに「おもらいする」などが使えないことは明らかですね。敬語を使いこなすには、ある程度の語彙はどうしても必要なのです。
さて、敬語の間違いの多くは次の三つに分類されます。
①
敬語になり得ない言葉を敬語として使ってしまう。
②
敬語を使う必要のないところで敬語を使ってしまう。
③
敬語にはなっているが、使い方が間違っている。
ご指摘の件、承知いたしました。至急調査のうえ、結果をお知らせします。
ご返信ありがとうございます。ご指定の日時に御社にうかがい、提案を詳しく説明させていただきます。ご都合がつくならば、終了後にお食事をご一緒させていただければ幸いに存じます。
「~させていただきます」が2回出現しました。何気なく使っている「~させていただきます」ですが、そもそも、これはどういう意味を持っているのでしょうか。「~させてもらう」の「もらう」を謙譲語の「いただく」に置き換え、さらに丁寧な表現にするために「ます」をつけ加えている、ということです。おおもとの「~させてもらう」とは、「相手の承諾を得て~を実行する」という意味ですね。したがって、例文の「お食事をご一緒させていただく」は、相手の都合を聞き承諾を求めているので使用法として理にかなっています。一方で、「提案を詳しく説明させていただく」は、日時まで決まっていて、いまさら承諾を得る必要はありませんので、使用法として適切でないということになります。「提案を詳しく説明いたします」が正しいのです。これが③のパターンになります。ここまで深く考えたうえで「~させていただきます」を使っている人はほとんどいないでしょう。
あるレストランを訪れた際、「ご注文を繰り返させていただきます」「伝票を置かさせていただきます」「お席は禁煙とさせていただいております」・・・。とにかく「~させていただきます」の連発でした。おそらく、文末に「~させていただきます」をつけなさいと、接客マニュアルに記載されているのでしょう。「ご注文を繰り返します」「こちらが伝票になります」「お席は禁煙となっております」、たしかに正しい敬語を使うといろいろな文末がでてきてマニュアル化は難しくなります。でも、美しい日本語を書こうと思ったら、避けて通れない道なのです。みなさんへのお勧めです。「~させていただきます」を使わずに敬語の文章を書いてみてください。
さて、戻って1通目のメールの例文ですが、私はこの手の文章が好きではありません。
先日頂戴しました電子メールを拝読し、貴社のご要望に沿うべく提案を練りました。
添付の資料をご高覧いただきますよう、お願い申し上げます。必ずや、ご満足いただけるものと確信しております。
先日ご送付くださった電子メールを読み、貴社のご要望に沿うように提案を練りました。
添付の資料をご覧ください。きっと、ご満足いただけると思います。
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