2020年9月21日月曜日

第2章 文を美しくするテクニック(6)

倒置法

またまた文法用語ですみません。聞きなれない言葉と思いますが、倒置法とは、「文中で、言葉の順番を普通の逆にする表現方法」です。何はともあれ、例文を見てください。

① またまた文法用語ですみません。 ⇒ またまたすみません、文法用語で。        

② 何はともあれ、例文を見てください。 ⇒ 何はともあれ見てください、例文を。

③ 勝つまでは、欲しがりません。 ⇒ 欲しがりません、勝つまでは。

基本的に、語順をひっくり返せば倒置法の文ができあがります。非常に簡単です。そして、それだけで文のイメージが変わります。倒置法は、文中の一部の言葉を強調する目的や、語調と整える(文にリズム感をつける)目的で使われます。①②は言葉を強調する、③は語調を整えるための倒置法となっています。実際には、「言葉の強調」のために使われるケースが圧倒的に多いので、もう少し詳しく分析してみることにします。

彼も私も、一等が当たるまで宝くじを買い続けるつもりだ。

① 彼も私も当たるまで宝くじを買い続けるつもりだ、一等が。
② 彼も私も宝くじを買い続けるつもりだ、一等が当たるまで。
③ 彼も私も一等が当たるまで買い続けるつもりだ、宝くじを。
④ 一等が当たるまで宝くじを買い続けるつもりだ、彼も私も。

 それぞれ、後ろに持ってきた言葉が違っています。そして、見比べていただけば、①は「何が当たるまで買い続けるのか」、②は「いつまで買い続けるのか」、③は「何を買い続けるのか」、④は「誰が買い続けるか」を強調していることがわかります。すなわち、文末にもってきた(倒置した)言葉が強調されているのです。

でも、このパターンだけではありません。

⑤ 一等が当たるまで、彼も私も宝くじを買い続けるつもりだ。
⑥ 宝くじを、彼も私も一等が当たるまで買い続けるつもりだ。
⑦ 宝くじを買い続けるつもりだ、彼も私も一等が当たるまで。

こちらの例は、①~④とは逆です。強調したい言葉を前にもってきています。後ろにもってきた場合とどんな違いがあるか、並べて確認してみます。

② 彼も私も宝くじを買い続けるつもりだ、一等が当たるまで。
⑤ 一等が当たるまで、彼も私も宝くじを買い続けるつもりだ。

 この、②との違いを説明するのはかなり難しいです。いずれも「一等が当たるまで」買い続けることを強調しています。どちらかといえば、後ろにもってきた②の方が、より強調されているといえるでしょう。でも、微妙な違いです。

この二つの文の違いは、単独で比べるよりもどんな場面で使うかで比べる方がよくわかると思います。

② 共同で購入した年末ジャンボ、3億円が1字違いで外れていた。彼も私も宝くじを買い続けるつもりだ、一等が当たるまで。

⑤ 一等が当たるまで、彼も私も宝くじを買い続けるつもりだ。私たちは、買う場所にもこだわりを持っている。わざわざ新橋まで出かけていくのだ。

強調する言葉を文末に倒置した場合は、そこで文章が打ち切られる雰囲気となりますので、段落や文章の最後で用いることをお勧めします。文頭に倒置すると、強調度合は下がりますが、前後の文とのつながりが良くなります。段落や文章の途中ではこちらが良いでしょう。

さて、倒置法はまだ終わりません。 

⑧ 宝くじを買い続けるつもりだ、彼も私も、一等が当たるまで。
⑨ 買い続けるつもりだ、宝くじを、彼も私も、一等が当たるまで。
⑩ 一等が当たるまで買い続けるつもりだ、彼も私も、宝くじを。
⑪ 当たるまで宝くじを買い続けるつもりだ、彼も私も、一等が。

 いったい、いくつの例文が作れるのでしょう。これでも全てではありません。⑨~⑪の一つひとつのニュアンスの違いを説明するのは困難だし、紙面の無駄なのでやめておきます。知っておいていただきたいのは、日本語が他の言語に比べて語順が自由だということです。書き手の技でいかようにもなるのです。一方で、自由度が高いぶんだけ、巧拙が目に見える言語だともいえます。練習あるのみ。

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