繰り返し
あたりまえですが、繰り返しは冗長な表現であり、美しい日本語のなかでは原則として排除すべきものです。(「わかりやすく」「読みやすく」「無駄がない」のなかの最後の「無駄がない」に反するからです)しかし、文章上の効果を狙って、あえて原則に反して繰り返しを使用する場合があります。
① 重要な言葉を繰り返す。
空気が乾燥する冬場は、一にも二にも、火の用心、火の用心。
感染予防には、手洗いが大切です。外から戻ったら、手洗いが大切です。
例文では、「火の用心」と「手洗い」を繰り返し使用しています。「火の用心」の方は、文中での単純な言葉の繰り返しですが、「手洗い」の方は、二つの文で、文の後半部を繰り返すという使い方になっています。このように、繰り返しにはさまざまなバリエーションがあるのです。「火の用心」の例文で、「冬」という季節も強調しておきたいということであれば、そこにも繰り返しを使います。
空気が乾燥する冬場。冬場は、一にも二にも、火の用心、火の用心。
② 繰り返しでリズムを作る。
真っ赤な夕日、雲間の夕日、西の空を染めながら沈む夕日。
走る。走る。新幹線は走る。鉄橋を渡り、トンネルをくぐり、新幹線は走る。
前を行くランナーを視界にとらえた。ゴールまでに追いついてみせる。
残りニキロを過ぎた。ゴールが近づいている。
競技場に入った。ゴールはもうすぐだ。
最後の直線。振り返る。ゴールだ。ゴールだ。
リズム感を演出するために、しばしば繰り返しが使用されます。名詞、動詞、形容詞など、さまざまな言葉が対象になります。「夕日」の例では、全く同じ言葉を単純に繰り返すのではなく、夕日を修飾する言葉を少しずつ変化させています。「新幹線」の例では、複数の文のなかに「走る」を埋め込んでいます。「マラソン」の例は応用編で、ゴールという言葉が繰り返し出てきますが、それに付随する言葉も場面も都度変化しています。
また、リズムには、一定のリズム、だんだんに言葉のサイクルを長くしていくリズム、逆にサイクルを短くしていくリズムがあります。「夕日」と「新幹線」はサイクルが長くなるリズム、「マラソン」はサイクルが短くなるリズムです。
③ 強い感情を表現する。
なぜだ。何故だ。何故なんだ。どうして私のことを理解してくれないんだ。
感情を表現する場合は、繰り返しの回数が増えるほど強調されるといえるでしょう。でも、あまりに回数が多すぎると嫌味になってしまいます。この例のように三回くらいが限度でしょうか。
渡航先では現地での情報収集に努め、少しでも危険を感じたら、安全第一で行動してください。
渡航先では安全第一で行動してください。現地での情報収集に努め、安全第一で行動してください。少しでも危険を感じたら、安全第一で行動してください。
これは、三つの文で文の後半部を繰り返すという、さきほどの「手洗い」の例文と同じ用法になっています。「無駄がない」という点では、もとの文の方が美しい日本語といえるかもしれません。でも、安全第一の重要性を伝えるには、しつこい繰り返しのあった方が確実ですね。読み手は、この渡航先はよほど危険なところに違いないと感じることでしょう。
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