箇条書き
ここまで、何度か箇条書きのことが出てきました。『「です、ます」と「だ、である」』の項目で、箇条書きのなかでは、文末に「だ、である」を使用するのが一般的であることを述べました。また、「体言止め」の項目では、箇条書きのなかで体言止めが多用されることを述べました。この項目では、箇条書きを使って文章を美しくする技を解説します。久々に「美しい」という言葉を使いました。思い出してください。「わかりやすい」「読みやすい」「無駄がない」文が美しいのでしたね。
では、どのような場合に箇条書きを使用するべきなのでしょう。文章中の文や、文中の言葉が複数(原則として三つ以上)並べられていて、その関係が並列であるか、または順序性をもっている場合、ということができます。ただし、並べられた言葉が短いものであったり、一部の例示である場合は、箇条書きにしない方が一般的です。今一つ、言葉で説明してもピンときませんので、事例で確認していくことにします。
カップラーメンを食べるには、まずフタを三分の一ほど開けてください。中のかやくと粉末スープ、液体スープを取り出します。かやくと粉末スープを入れてください。熱湯を容器の内側の線まで注ぎます。三分待ちます。液体スープを入れてかきまぜたらできあがりです。
カップラーメンを食べるには、まずフタを三分の一ほど開け、中のかやくと粉末スープ、液体スープを取り出し、かやくと粉末スープを入れて、熱湯を容器の内側の線まで注ぎ、三分待って液体スープを入れてかきまぜたらできあがりです。
箇条書きにすると、
カップラーメンの食べ方は次のとおりです。
①フタを三分の一ほど開ける。
②中のかやくと粉末スープ、液体スープを取り出す。
③かやくと粉末スープを入れる。
④熱湯を容器の内側の線まで注ぐ。
⑤三分待つ。
⑥液体スープを入れてかきまぜる。
⑦できあがり。
箇条ごとに改行すると紙面上のスペースをとりますので、改行せずに並べることもあります。
カップラーメンの食べ方は次のとおりです。①フタを三分の一ほど開ける。②中のかやくと粉末スープ、液体スープを取り出す。③かやくと粉末スープを入れる。④熱湯を容器の内側の線まで注ぐ。⑤三分待つ。⑥液体スープを入れてかきまぜる。⑦できあがり。
箇条書きにしたくなってきますね。言葉が長くなったこともありますが、並べられたものを比較したり、頭に刻み込んでおきたいような場合も箇条書きが有効だからです。
東北各県で有名なお祭りは次のとおりです。
青森:「ねぶた祭」
秋田:「竿灯まつり」
岩手:「さんさ踊り」
宮城:「七夕まつり」
山形:「花笠まつり」
福島:「わらじ祭り」
東北地方で開催される有名なお祭りとして、青森の「ねぶた祭り」、秋田の「竿灯まつり」、宮城の「七夕まつり」などがあります。
さきほどの事例では、東北六県のお祭りが全て列挙されていましたが、今回はその一部が例として示されているだけです。「~など」という表現がよく使われます。この場合は、箇条書きにしない方がよいでしょう。箇条書きにしても、一部では比較ができないからです。
では、もう少し複雑な事例に挑戦します。以下は、顧客向けの案内文書です。文章としては正しく書かれていますが、美しくないですね。わかりにくく、読みにくい。これでは顧客は間違いを起こしそうです。
弊社の○○サービス(メールマガジン、通販カタログ、新製品・キャンペーンのご案内のいずれか、または全て)をご希望のお客様は、電子メールに、ご氏名、ご住所、電話番号、ご希望されるサービスの種類をご記入のうえ、次のメールアドレスにご送付ください。
info@〇×〇×.com
その際、弊社からの返信メールを受信できるメールアドレスをご使用ください。
なぜ、わかりにくく、読みにくいのでしょうか。原因は、サービスの種類、電子メールへの記載事項などを、文の中にべたべたと並べていることにあります。箇条書きを使うことで、見違えるように美しい(わかりやすく、読みやすい)文章に生まれ変わります。
この事例では、「電子メールに記入する事項」は、「ご氏名」、「ご住所」、「電話番号」など短い言葉ですから、箇条書きにする必要はないのでは、と考えた方もいるでしょう。原則はそのとおりです。しかし、今回の文章の特徴は、「顧客に正確に伝えたい」内容であるという点です。正確に伝えるためには、その内容が文のなかに埋もれて見落とすことがないように、箇条書きがお勧めなのです。
また、「サービスの種類」については、選択肢が列挙されています。選択肢についても、比較がしやすいように、箇条書きをお勧めします。
弊社の○○サービスをご希望のお客様は、電子メール(※1)にてお申込みください。
1.電子メールにご記入いただく事項
・ご氏名
・ご住所
・電話番号
・ご希望されるサービスの種類(※2)
2.電子メールの送付先
※1 弊社からの返信メールを受信できるメールアドレスをご使用ください。
※2 ①メールマガジン、②通販カタログ、③新製品・キャンペーンのご案内
(いずれか、または全てをお選びください)
実は、やろうと思えばあらゆる文章は箇条書きに書き直すことが可能です。試しに、第1章のなかで出てきたエントリーシートの事例を再度取り上げましょう。
今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだのです。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれません。
私はさんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。それまで、チームのキャプテンや、学部代表の委員など、人の先頭に立つ機会があったのに気付いていなかったのです。自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。
えっ、これを箇条書きにするの、これを箇条書きにできるの、という感じですよね。それが、コツさえわかれば誰でもできるんです。
まず、文ごとに改行してください。そして、一つひとつの文が何を表現しているかを確認します。その際、複数の文がセットになって一つのことがらを表していることがありますので、その場合はあとでもとに戻します。
① 今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。
⇒ 今までに最も力を入れて取り組んだ事を書いている。
② 私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。
⇒ バドミントンを始めた経緯を書いている。
③ 野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだのです。
⇒ バドミントンに取り組んだ姿勢について書いている。
④ 大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。
⇒ 母校バトミントン部でコーチを引き受けた当初の指導方針について書いている。
⑤ しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれません。
⇒ 当初の指導結果について書いている。
⑥ 私はさんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。
⇒ 指導方針の変更について書いている。
⑦ リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。
⇒ 後輩の指導から学んだ事を書いている。
⑧ それまで、チームのキャプテンや、学部代表の委員など、人の先頭に立つ機会があったのに気付いていなかったのです。
⇒ 学んだ事をさらに説明している。
⑨ 自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。
⇒ 学んだ事をさらに説明している。
このなかで、複数の文がセットになっているのはどれでしょう。⑦⑧⑨は明らかですが、もう一か所、当初の指導方針とその結果について書いている④⑤もひとまとまりです。⑤の文は単独では意味が通じません。というわけで、全体を六つのまとまりに分けることができました。これを箇条書きにするのです。また、箇条書きの鉄則は、一つひとつの項目に書かれている内容が一目でわかることです。そこで、見出しをつけることにします。
l 今までに最も力を入れて取り組んだ事: 母校バドミントン部での後輩の指導。
l バドミントンを始めた経緯: 高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部した。
l バドミントンへの取り組み姿勢: 「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだ。
l 母校コーチとしての当初の指導方針と結果: 大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導した。しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれなかった。
l 指導方針の変更: さんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにした。
l 後輩の指導から学んだ事: リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事。それまで、チームのキャプテンや、学部代表の委員など、人の先頭に立つ機会があったのに気付いていなかった。自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験だった。
できました。立派な箇条書きになっています。もともとの文章と比べてみてください。この文章の内容、書き手が伝えたいことが明確になりました。これが箇条書きの効果です。もちろん、何でもかんでも箇条書きにすればよいということではありません。箇条書きには三つの注意点があります。
まず、箇条の一つひとつがあまり長くならないようにすること。箇条ごとの文が2行以上になる場合は、事例のように見出しをつける対策が有効です。
次は、箇条の数をあまり多くしないことです。10個が上限と思ってください。箇条書きは、一覧性があることが長所ですので、数が多くなって全体を一目で俯瞰できないようだと、長所を生かし切れなくなります。10個を超える場合は、それをさらに複数のまとまりに分け、別の箇条書きにする工夫が必要です。
最後に、文章中が箇条書きばかりにならないようにすることです。箇条書きにした文章は、そこだけを捉えると「わかりやすさ」「読みやすさ」が向上しますが、文章がぶつ切りになって前後のつながりに欠けるので、箇条書きが続くとだんだん読みづらくなってきます。
さて、箇条書きについて多くの事例を見てきました。とりわけビジネス文書では、ものごとを正確に伝えることが重要なので、文章の推敲の際に「わかりにくい」と感じるところがあったら、箇条書きを試す癖をつけてください。
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