2020年11月29日日曜日

第3章 美しく文章を構成するノウハウ(1)

 段落の区切り方

第3章で共通的に使用する事例から始めましょう。1200字弱の文章です。手書きの場合は原稿用紙3枚分、パソコンで作成する場合はA4用紙1枚という、皆さんが出会う機会が最も多い長さです。この先、何度も引用しますのでじっくり読んでおいてください。個々の文は、美しい日本語になっているという前提で進めていきます。

 

少子化により、日本の人口が減少している。数十年後には、現在の半分になってしまうという予測もある。単純に考えれば、二人の親から二人の子供が生まれて、ようやく人口が保たれることになる。ご存知のとおり、子供の数の平均は、二人を大幅に下回っている状況なのだ。少子化にはさまざまな原因が想定される。結婚しない、結婚しても子供を産まないという生き方が定着したこと。女性の社会進出により晩婚化が進んだこと。子供の教育にかかる費用が増えたこと。などなどである。

このまま人口が減少すると、さまざまな負の影響が出てくる。多くの企業は、人口減少で縮小する国内市場を相手にしていては、成長することも利益を上げることも難しくなり、これまで以上に海外市場へ目を向けざるを得ない。一方で労働力が不足し、外国からの移民を受け入れないと、あらゆる産業を支え切れなくなるだろう。さらに、社会インフラを維持できない自治体が出てくる。道路、電気、水道などの保守コストに見合うだけの料金収入や税収が得られなくなるからだ。過疎地域から街の中心部への移住を推進する必要があるだろう。社会保障制度が維持できるかどうかも心配だ。少子化の影響で、人口に占める高齢者の割合が増加している。国の借金は世界トップの水準にあり、将来の年金の減額や支給開始年齢の引き上げ、医療保険・介護保険の自己負担の増額などが避けられない。

こうした由々しき事態にもかかわらず、国会や政府の動きはにぶい。少子化対策として保育園の増設など、子育て世代支援の政策は打ち出されているが、効果が出るにしても時間がかかる。年金や医療・介護保険の見直しは遅々として進んでいない。なぜなら、こうした政策は選挙の票に結びつかない、どころか、選挙の票を減らしかねないからである。選挙のたびに報道される、世代別の投票率を思い出していただきたい。高齢層ほど高く、若年層ほど低い。すなわち、高齢者に不人気な政策は、どの政党にとっても選挙対策上とりにくいと考えられるのだ。

政治家も、国民も、将来のことに目を向けようとしない現状のままでは、日本は沈没しかねない。これを何とかするには、選挙制度の改革が必要である。選挙制度については、地域による一票の格差にばかり議論が集中しているが、世代間の投票率の差の方がもっと大きな問題である。若者の投票率を上げるために、ネットでの投票を可能にするのが一つの対策になるだろう。世代ごとの投票率によって、一票の重みづけを変える、例えば20歳代の投票率が60歳代の半分だったら、票の重みを2倍にするといった仕組みも考えられる。「選挙に行ってもどうせ何も変わらないから」という若年層の諦めムードを払拭する、将来を担う若者の意見を反映できる、そんな抜本的な改革が求められている。

 

新聞の社説のような文章ですが、これは私が事例として作成したものです。内容についてのご意見もあるでしょうが、そこは目をつぶって、あくまでも文章構成を確認していくための事例としてお読みください。

さて、本題に入りましょう。段落とは文章の区切りです。ご存知のとおり、段落が終わったら改行し、段落の最初は字下げを行うのがルールです。では、どのように文章の区切りをつけていけばよいのでしょう。区切りの候補となるのは次のような場合です。事例は段落分けをしていませんので、どこで区切れば良いか、練習問題のつもりで考えてみてください。

① 書いてある内容が大きく変化する場合

日本は地震国である。全国のあちらこちらで、毎日のように地震が発生している。多くの人は地震をひとくくりにしてしまうが、大きく二つのタイブに分けることができる。プレート境界型の地震と直下型の地震である。日本は火山国でもある。全国のいたるところで温泉が湧きだしている。噴煙を上げ続ける活火山も北から南まで数多い。

一番わかりやすい例です。この文章は、地震に関する記述から始まって、途中で火山に関する記述に切り替わります。したがって、「日本は火山国でもある」の前で段落を分けます。このように内容が大きく変化したところで文章を区切るのが基本です。

② 時間や場面が変化する場合

東日本大震災があった年の夏、私はボランティアで仙台市を訪ねた。東部道路より海に近い地域では田畑が津波によって海水につかり、耕作ができない状態だった。私たちボランティアは必死で泥かきと草取りに取り組んだ。四年後の夏、私は再び仙台の土を踏んだ。がれきと泥と雑草に覆われていた荒地は、豊かな緑の大地に変わっていた。大自然に翻弄されても、再び立ち直った人々の営みがそこにはあった。

この例では、最初から最後まで東日本大震災後の仙台市の様子が描かれています。でも前半は震災があった年のことが書かれ、後半は四年後のことが書かれています。この時間(場面)が変わったところで段落を分けるのが一般的です。

③ 一つの段落が長すぎる場合

文章を読む際、私たちは意識せずに、一つの段落を一気に読み進んで、そこで一休みして内容を頭の中で整理するという作業を繰り返しています。そのため、一ページに段落もなくびっしり文字が詰まっていると読む気をなくしてしまいます。息継ぎなしでプールの端から端まで泳ぎなさいという感じです。文庫版や新書版の書籍は一ページが15~16行程度ですが、私はその半分くらいが段落の長さの上限と考えています。字数にすると、300~400字というところです。それを超える場合には、たとえ書いてある内容に変化がなくても、時間や場面が共通でも、読みやすさを考慮して段落を分けた方が良いのです。美しい日本語の条件には、「読みやすいこと」が入っていましたね。ちなみに、この段落は345字となっています。ちょうど良い長さです。

長い文章では、段落がいくつもいくつも連なります。小説ならともかくとして、同じようなパターンの段落がどこまでも続くと、読み手は飽きがきてしまいます。そのために、段落に階層を設け、読みやすくする工夫がなされます。

小段落を複数まとめて中段落とする場合、小段落の間は通常の改行と字下げにしておき、中段落の間は行間を多めにとって、文章の大きな切れ目であることを明確にする、などの方法がとられます。このブログもこのやり方です。中段落を束ねる大段落となると、見出しをつけて大段落としてのまとまりを明示するのがよいでしょう。

このブログを例にとると、文章の構造は、「章」「項目」「中段落」「小段落」の4階層になっています。一般的なビジネス書籍ですと、文章を読むスピードは、普通に読み流しているときで400字につき30秒、新書版1ページで1分弱というところです。読み手の集中力を考慮すると、5~10分で一休みできる構成が良いと考えます。そのためには、新書版10ページ以内、字数で6,000字以内を目安に、大段落(このブログでいえば項目)を設けることをお勧めします。

ここまで述べたとおり、段落は読み手の立場になって、読みやすさを向上させるために設けます。同じ趣旨で、このブログ中の「こぼれ話」や「ワンポイント・レッスン」のように、本文とは独立した囲みの文章を挿入し、読み手に一休みの時間を提供する方法もあります。特に、堅めの文章においては、意図的に柔らかい内容の文章を挿入し、読み手の疲れを癒してあげましょう。

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