表題と見出しのつけ方
本項では、表題や見出しのつけ方を解説します。最初に、「表題」と「見出し」の違いを確認しておきましょう。「表題」は「標題」とも書きますが、その字のとおり書物や文章の題名(タイトル)です。「見出し」とは、文章の前に示す短い言葉で、内容を一見して理解できるように作られます。このブログでいえば、先頭にある「美しい日本語の書き方」は、あたりまえですが表題です。各章につけられている「はじめに」「美しい文章を書くための鉄則」なども表題とみてよいでしょう。表題は文章全体として何について書かれているかを表していますが、具体的な内容を示してはいない場合が多いのです。「美しい文章を書くための鉄則」が何なのかは、表題を見ただけではわかりません。小説のタイトルもしかり。「雪国」というタイトルからは、雪国が舞台となっていることはわかりますが、内容は皆目見当がつきません。それに対して、見出しの方は具体的な内容を伝えることが意識されます。このブログの各章における個別の項目につけられた、「平易な言葉を使う」「短い文を心がける」などは見出しということになります。この区別をつけておいてください。
それでは、表題をつける練習です。共通事例は四つの段落から構成されていますが、その段落の一つひとつに表題をつけてみることにしましょう。次の中から適切なものを選んでください。
① 日本が抱える少子化問題
② 将来の問題を直視する政治を
③ 選挙制度改革の必要性
④ 人口減少による影響と対策
⑤ 世代による投票率の違いとは
⑥ 少子高齢化への対策が進まない理由
文章を最初から見ていきます。第一段落には、少子化問題とその原因が書かれています。表題は①の「日本が抱える少子化問題」がぴったりです。第二段落は少子化に伴う人口減少による将来的な影響と、その対策が書かれています。第二段落の表題としては「人口減少による影響と対策」が良いでしょう。第三段落には、少子高齢化に対応する政策が遅々として進まない理由が記述されています。表題は⑥「少子高齢化への対策が進まない理由」となります。ここまでは比較的簡単です。さて、第四段落には、若者の意見を政策に反映するために、選挙制度の改革が必要であることが述べられています。では、表題は③「選挙制度改革の必要性」でしょうか。ちょっと待ってください。確かに選挙制度の改革が必要だとは書かれていますが、その目的に着目しなければなりません。一般に、「選挙制度の改革」と言えば、想像されるのは一票の格差を是正するための、定数削減や選挙区間での定数変更です。でも、第四段落でいう改革は目的が違います。若者の意見を政策に反映するための改革です。将来の問題を直視した政策を実現するための改革です。表題をつけるなら、②「将来の問題を直視した政治を」が適切といえるでしょう。
このように、多くの場合、表題は文章中のキーワードを抜きだすことによって設定できますが、中には文章中にない新たな言葉を用いる必要があるケースもあるのです。
次に、事例の文章全体に表題をつけるとしたらどうでしょう。各段落につけた表題の中から、文章全体にふさわしいものを選んでください。これは簡単です。この文章では第一段落から第三段落までは、既知の事実や予測の記述で、最後の第四段落に作者の意見が書かれています。この文章の肝は第四段落にあると言えます。全体の表題としても、「将来の問題を直視した政治を」がふさわしいのです。
では、表題はこのくらいにして、見出しについて考えてみましょう。見出しの代表例は新聞や雑誌にあります。新聞の記事は発生した事実のみが書かれていますので、それを要約した見出しになっています。
○○総理大臣は、20日に開催される国際■■会議に出席するため、本日政府専用機で××国の首都△△に到着し、夕刻に●●大統領と個別会談を行った。そのなかで、○○総理大臣は、××国で計画されている高速鉄道建設において、日本の技術を導入することを条件に、□□億円の円借款を供与する準備があることを表明した。●●大統領は、前向きに検討することを約束した。
この記事は、○○総理と●●大統領の会談の中身に関する報道ですから、見出しは「○○総理、××国高速鉄道建設への支援を表明」といった感じになるでしょう。
同じ新聞でも、スポーツ紙や夕刊紙になると、総合紙や経済紙とはだいぶ違います。どちらかといえば、事実を正確に、客観的に伝えるよりは、記事の面白さを優先した編集方針となっているからです。雑誌に近いと言えるでしょう。読者の興味を引くような、思わず買いたくなるような見出しが求められるのです。
懲りない○○知事 今度は5泊7日の米国“花見外遊”敢行
これが公正? 新「五輪エンブレム選考」またデキレースか
報道スタンスに疑義 ●●氏らキャスター降板 「偏ってるんです、私」
これは、夕刊紙の見出しを抜き出してきたものです。「懲りない」「これが公正?」「偏ってるんです、私」など、事実を伝えるためには必要のない修飾、疑問文、会話文などが使われています。
事例を用いて練習してみましょう。まず、新聞(総合紙)モードで各段落に見出しをつけると、こんな感じになります。
<見出し> <表題>
少子化による人口減少が加速 ⇔ 日本が抱える少子化問題
さまざまな負の影響が発生 ⇔ 人口減少による影響と対策
対策は高齢者に不人気 ⇔ 少子高齢化への対応が進まない理由
若者の意見を反映するためには ⇔ 将来の問題を直視する政治を
表題と対比すると、その違いがよくわかりますね。表題が段落全体で何か書かれているかを要約しているのに対して、見出しは主要な記述内容を具体的に示しているのです。体言止め、倒置法が多用されるのも見出しの特徴です。
それでは、堅めの見出しをもう少し柔らかくして、総合紙とスポーツ紙の中間くらいにしてみます。
少子化で日本の人口は半分に
避けられない社会保障制度の崩壊
正しい政策が不人気な理由とは
若者よ、将来のために声をあげよ
ビジネス文書では、このレベルが限界かと思います。誇張した表現はありませんが、読み手が興味をそそられる言葉がちりばめられています。「人口は半分に」「避けられない~崩壊」「正しい⇔不人気」「声をあげよ」といったところです。
さらに、週刊誌・スポーツ紙のレベルまで柔らかくするとどうなるか。
えっ、日本の人口が半分になる?
どうする。社会保障制度は崩壊寸前!
身動きできない、高齢者票頼みの政治家たち
さめた若者、ネットで選挙に呼び戻せ!
感嘆詞、はてなマーク、びっくりマークなど、「読んでくれ」という編集者の思いが伝わってきます。たしかに興味はそそられるかもしれませんが、見出しのせいで、文章全体の格調が損なわれるので注意しなければなりません。作者がほんとうに言いたいことを表しているかどうかも疑問です。こうしたくだけた見出しのつけ方もあるよ、ということで頭の片隅に置いていただければ十分です。
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