起承転(展)結
文章構成の基本は起承転結にあると言われます。小中学校の国語の授業でも起承転結が出てきます。起承転結で書かれた文章が、わかりやすく、読んで心地よいのは事実です。(すなわち美しい文章だということ)だからといって文章は全て起承転結を意識して作成しなければならない、ということではありません。ビジネス文書や論文を書くときには、起承転結の構成よりも論理的な一貫性の方が重視されるからです。この項目では、起承転結とは何か、起承転結にはどんなパターンがあるか、そしてどんな効果が期待できるかについて解説します。それを理解することによって、起承転結の構成を使うべき場面も見えてくることと思います。
起承転結という言葉は、絶句という漢文の四行詩から生まれたものです。一句目(一行目)が起句(文意を書き起こす)、二句目が承句(文意を受けて掘り下げる)、三句目は転句(題材を変えるなどして文意を発展させる)、四句目が結句(全体をまとめて結びをつける)と呼ばれます。
こちらは、中国唐時代の詩人、杜甫の作による五言絶句(漢字五文字の四行詩)です。
戦争が終わったのに、故郷に帰ることができない杜甫の想いが描かれています。起承転結のお手本のような作りとなっていますね。
江 碧 鳥 愈 白
山 青 花 欲 然
今 春 看 又 過
何 日 是 帰 年
江碧にして鳥いよいよ白く
山青くして花然(も)えんと欲す
今春看す(みすみす)又過ぐ
何(いず)れの日か是れ帰年ならん
長江は深いみどり色に澄み、鳥たちはいっそう白く見える。
山は木々が青く生い茂り、花は燃えるような赤色に染まっている。
こうして春は過ぎ去っていく。
故郷に帰ることができるのはいつの日だろうか。
起承転結の例としては、しばしば四コマ漫画が使われます。漫画ですから、最後の「結」は「オチ」になる、というところが文章との違いです。この四部構成は、中国や日本だけの文化ではありません。ヨーロッパで生まれたクラシック音楽は、ソナタという形式で作曲されているものが多いのですが、このソナタ形式は、「提示部」「展開部」「再現部」「終結部」という、まさに起承転結の構成となっています。さらに交響曲の多くは、ソナタ形式の第一楽章、穏やかな第二楽章、明るく弾む第三楽章、そして再びソナタ形式の第四楽章から構成されています。二重の起承転結構造ということができるでしょう。起承転結で作られた文章や音楽が心地よいのは、万国共通のことがらなのです。
起承転結の「転結」にはいくつかのパターンがあります。「転」という字が使われているので、話題を変えなければいけないように思われがちですが、必須ではありません。文意を発展させて、「結」の結論や結びにつなげていけば良いのです。「起承転結」ではなく、言わば「起承展結」となるわけです。事例で確認しましょう。「起」と「承」はパターン間で共通とします。
(「起承展結」はこのブログ内で用いているだけで、一般的な言葉ではありませんのでご注意を)
起) 安部首相は消費税の10%への引き上げを選挙公約にした。
承) 衆議院選挙で自民党は大勝利した。
① 話題を変えないパターン
転) 安定多数を得た与党は、国会での主導権を維持している。
結) 安部首相は予定どおりの消費税引き上げを決定するだろう。
② 話題を変えるパターン
転) 引き上げの条件である景気は、アベノミクスの効果で持ち直している。
結) 安部首相は予定どおりの消費税引き上げを決定するだろう。
①は、選挙公約の内容→選挙結果→選挙結果を受けての国会運営→選挙公約の実行、という流れで、話題の転換はありません。「起承展結」です。②は、選挙公約の内容→選挙結果→経済政策の効果→選挙公約の実行、になっています。選挙結果から経済政策の効果へと、話題が大きく転換されています。「起承転結」です。
さらに、「起承展結」「起承転結」それぞれの「結」の部分で、そこまでの流れに沿った文章の結びとするパターンと、流れを大きく変えた(あるいは否定した)結びとするパターンがあります。後者は、いわば4コマ漫画の「オチ」に該当するものです。この視点から再度事例をみると、①②ともに、公約をそのまま実行していますので、前者の、流れに沿った結びといえます。では、後者はどんな作りになるのでしょうか。
③ 話題を変えずに流れを否定するパターン
転) 選挙後に、党内から引き上げへの異論が噴出ている。
結) 安部首相は消費税の引き上げを断念するだろう。
④ 話題を変えて流れを否定するパターン
転) 新興国経済の不調により、引き上げの条件である景気が悪化している。
結) 安部首相は消費税の引き上げを断念するだろう。
③は、選挙公約の内容→選挙結果→選挙後の党内意見→選挙公約の取り下げ、という流れです。選挙の話題から逸れてはいませんが、勝利で当然公約を実行すべきところを断念する、というどんでん返しで終わっています。④は、選挙公約の内容→選挙結果→新興国が原因の景気の悪化→選挙公約の取り下げと、選挙結果とは関係ない、景気の話題に変えたうえでのオチとなっています。起承転結というと、この④のパターンが意識されることが多いのですが、実際には、ほとんどの文章は自然な①のパターンで作成されています。無理に、④のパターンに持ち込もうとする必要はありません。ちなみに、本章の共通事例も四つの段落から成り、①のパターンで「起承展結」の構成となっています。
次に、どのような文章において起承転結の構成が有効かをお伝えすることにしましょう。そのために、起承転結以外の構成で書かれた事例を見ていただきます。
一億総活躍社会の実現に向けて、女性の社会進出を後押ししようと、全国各地で保育所の増設が進められている。
しかし、保育所ができても保育士が不足してフル稼働できない事例が相次いでいるという。これは、保育士の賃金が他の職業に比べて低いためである。同じ現象は、高齢者用施設の介護士でも起きている。
公共の福祉に関わる職業においては、人材の需給ギャップを埋めるために、国や自治体が補助金で賃金差を埋めるなど、ヒトを重視した政策が必要である。
この文章の構成は、「Aである。(Aを受けて)Bである。(したがって)Cである」という形になっています。ホップ、ステップ、ジャンプという感じです。この三段階の構成は、さまざまな場面で出てきます。「大前提」「小前提」「結論」という流れで演繹的な推論をする三段論法が代表例です。
犬の足は四本である。 → 大前提:普遍的な事実
シェパードは犬の一種である。 → 小前提:個別の事実
シェパードの足は四本である。 → 結論
保育士の事例は三段論法ではありませんが、第一段落で「A(保育所の増設)という事実」を示し、第二段落で「B(保育士の不足)という新たな事実」を示し、第三段落で「(A、Bを総合して、)C(ヒトを重視した政策の必要性)という主張(結論)」を導き出している、という全体の構造は共通です。すなわち、「起承結」の三段階の構成が、結論(意見や主張)を記述する文章の基本なのです。
ここに、もう一つの段落(傍線部)を付け加えて、起承転結の構成に変えてみます。
一億総活躍社会の実現に向けて、女性の社会進出を後押ししようと、全国各地で保育所の増設が進められている。
しかし、保育所ができても保育士が不足してフル稼働できない事例が相次いでいるという。これは、保育士の賃金が他の職業に比べて低いためである。同じ現象は、高齢者用施設の介護士でも起きている。
これまでの政治は、ハード(ハコモノ)優先で行われてきたが、人口が減少し始めている日本においては、ソフト(ヒト)に目を向けないと解決できない問題が多い。
公共の福祉に関わる職業においては、人材の需給ギャップを埋めるために、国や自治体が補助金で賃金差を埋めるなど、ヒトを重視した政策が必要である。
さて、「転」の位置に段落を加えたことにより、どんな効果がみられるでしょうか。このケースでは、もともと作者が言外に込めていた思いを第三段落に表現した、という印象です。作者は結論として、ヒトを重視した政策が必要だと言っているのですが、そもそも「ヒト」という言葉にカタカナを使って強調しているのは、それに対峙する「モノ」に偏った政治を批判する気持ちが込められていたから、と考えられるのです。第三段落を追加したことにより、作者の意図が確実に伝わるようになりました。「転」は結論を導き出す役目、結論に向かって文章を盛り上げる役目を担っています。
このように、起承転結の構成において、「転」はおまけの場合が多いのです。パターン分けした事例を振り返ってみましょう。事例のなかから「転」を抜きます。
パターン①②
起) 安部首相は消費税の10%への引き上げを選挙公約にした。
承) 衆議院選挙で自民党は大勝利した。
結) 安部首相は予定どおりの消費税引き上げを決定するだろう。
パターン③④
起) 安部首相は消費税の10%への引き上げを選挙公約にした。
承) 衆議院選挙で自民党は大勝利した。
結) 安部首相は消費税の引き上げを断念するだろう。
パターン①②では、「転」を抜いても文章の意味が通じています。一方、パターン③④では、自民党が大勝利したのに、なぜ増税を断念するのかが不明で、文章内に矛盾が生じています。パターン①②と③④の違いは、文章全体の流れに沿った結論か、流れを否定する結論かということでした。後者の場合には、流れを反転させるための「転」の存在が不可欠で、前者は流れを補完する役割なので「転」はおまけということになるのです。
それでは、練習問題です。次の文章を、起承転結に区切ってください。もし、起承転結のどれかが欠けているならそれも指摘してください。
人口減少が進む○○県△△市では、税収の落ち込みにより財政状況が悪化している。公共施設の建設・補修は延期や中止が相次いでいる。水道料金は県内で最も高い。市では県外からの移住を促進するため、農作業体験のイベント開催や、空き家の無償貸与など様々な施策を展開している。本年の転入者は二十人と過去最高を記録した。しかし、それより一桁多い数の転出が続いている。施策は焼け石に水の状況である。
皆さん、困られたのでは。実は、この文章は「結」が欠けているのです。まず「起」ですが、△△市の財政状況に関する書き出しですので、その説明が一段落するところで区切ります。水道料金までです。次に「承」は、財政状況悪化を受けての市の施策と結果の説明です。転入者の数が最高を記録したという文までです。ここで話題は転じて、施策がうまくいったように見えて、実態は焼け石に水だということが書かれています。「転」ですね。文章はこれで終わってしまいました。そもそも、皆さんはこの文を読んで、尻切れトンボのような気がしませんでしたか。
起)人口減少が進む○○県△△市では、税収の落ち込みにより財政状況が悪化している。公共施設の建設・補修は延期や中止が相次いでいる。水道料金は県内で最も高い。
承)市では県外からの移住を促進するため、農作業体験のイベント開催や、空き家の無償貸与など様々な施策を展開している。本年の転入者は二十人と過去最高を記録した。
転)しかし、それより一桁多い数の転出が続いている。施策は焼け石に水の状況である。
この文章は論説調で書かれ、「転」を設けて次に作者の意見が来るぞ、と思わせたまま終わっています。焼け石に水で締めくくってしまっては、△△市には救いがありません。これではいけません。もし、この文章が事実を伝えるだけの目的であれば、最後の二つの文を次のよう(傍線部)に変えて、「承」に組み込めば良いのです。
承)市では県外からの移住を促進するため、農作業体験のイベント開催や、空き家の無償貸与など様々な施策を展開している。本年の転入者は二十人と過去最高を記録した。しかし、それより一桁多い数値の転出が続き、施策の効果は限定的なものにとどまっている。
一方、もともとの「転」を生かすならば、最後に「結」となる文を加えます。「転」を入れたら、セットで「結」が必要なのです。
結)少子高齢化により、△△市のような地方都市では長期的な人口減少は避けられない。過疎地域から市街地への住民の移住を進めてコンパクトな街づくりを目指すなど、根本的な対策が必要である。
ここまでの事例(共通事例、保育士の事例、△△市の事例)は全て論説調の文章でした。こうした、作者が意見を述べる文章において、起承転結の構成が、効果的であることをご理解いただけたことと思います。エントリーシートや小論文、作文なども同様といえます。
最後に、起承転結に関するノウハウを整理して本項目を終わることにします。
① 起承転結の構成は、全ての文章に必須のものではない。
② 事実だけを伝える文章では、「起承」だけの構成でよい。
③ 「結」が文章の流れを逆転させる(否定する)ものでない限り、
「転」は省略可能である。
④ 意見を述べる文章では、起承転結の構成が効果的である。
⑤ 四部構成の文章には、「起承展結」と「起承転結」がある。
⑥ 「転」を設けたら、セットで「結」が必要である。
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