2021年3月13日土曜日

第3章 美しく文章を構成するノウハウ(4)

 結論が先

文章の結論は、先に書いてください。読み手がびっくりするような結論が控えていて、それに向けてだんだんに期待感を高めていくような文章であれば、結論を最後にまわす効果がありますが、皆さんは推理小説を書くわけではありませんので、ほとんどの場合、結論を隠しておく必要はありません。

 と、ここまで読んでおかしいぞ、と思われた方がほとんどでしょう。一つ前の「起承転結」の項目で、結論は最後と言ったじゃないかと。実は、どちらも誤りではありません。最初と最後に、二度結論を書いてくださいという意味です。起承転結の「起」の前に、結論を書いておいてくださいということです。

 読み手は、皆さんの書いた文章を最後まで読んでくれるとは限りません。最初だけ読んで、興味がなければ途中でやめてしまうかもしれないからです。できるだけ多くの人に自分の考えを伝えたい、という文章であれば、そのための工夫が必要なのです。

結論を先に書いておくことによって、最初しか読まなかった人にも考えを伝えることができます。読み手からすれば、自分にとって興味のある内容か、自分として賛同できる意見かどうかを、短時間で読み取ることができます。

 そうは言っても、結論から書き始めるのは抵抗感がある、書きにくいという方が多いでしょう。そのとおりと思います。安心してください。文章全体を書き終わってから、結論を抜き出してきて先頭に加えてやればよいのです。表題や見出しを、後から考えるのと一緒です。

それでは、結論の抜き出し方と、先頭への加え方について考えてみましょう。共通事例を用います。起承転結の「結」、第四段落に着目します。

 

政治家も、国民も、将来のことに目を向けようとしない現状のままでは、日本は沈没しかねない。これを何とかするには、選挙制度の改革が必要である。選挙制度については、地域による一票の格差にばかり議論が集中しているが、世代間の投票率の差の方がもっと大きな問題である。若者の投票率を上げるために、ネットでの投票を可能にするのが一つの対策になるだろう。世代ごとの投票率によって、一票の重みづけを変える、例えば20歳代の投票率が60歳代の半分だったら、票の重みを2倍にするといった仕組みも考えられる。「選挙に行ってもどうせ何も変わらないから」という若年層の諦めムードを払拭する、将来を担う若者の意見を反映できる、そんな抜本的な改革が求められている。

 

もちろん、この段落全体を、そのまま文章の先頭にコピーすればよいというものではありません。文章中に同じ文が二度出現するのはクールではない(無駄がある)からです。新たに、結論を要約した文を作る必要があります。(文章を要約する際のポイントについては後の項目で詳細を解説します)この程度の長さの文章であれば、二行以内にまとめることを目標としましょう。

「表題と見出し」の項目でも取り上げましたが、この段落では選挙制度の改革を訴えていますが、その目的は選挙での投票率が低い若者の意見を政治に反映させることです。要約のなかで選挙制度に触れると、選挙制度に関する論説だという誤解を受ける可能性があるので、外すことにします。こんな感じでしょうか。

 

将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。

 

結論の要約としてはこれでオーケーなのですが、文章の先頭にこの文を置くと、「なぜ」この結論が導かれたかの説明がないために唐突感があります。このような場合は、「なぜ」を説明する文(傍線部)を作って合体させるとよいでしょう。

 

現在の日本では、政治家も国民も、目前の選挙の票や自己の利益のことしか考えていない。将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への変革が求められる。

 

できました。これを文章の「起」の前に置いてみます。

 

現在の日本では、政治家も国民も、目前の選挙の票や自己の利益のことしか考えていない。将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への変革が求められる。

少子化により、日本の人口が減少している。数十年後には、現在の半分になってしまうという予測もある。単純に考えれば、二人の親から二人の子供が生まれて、ようやく人口が保たれることになる。ご存知のとおり、子供の数の平均は、二人を大幅に下回っている状況なのだ。少子化にはさまざまな原因が想定される。結婚しない、結婚しても子供を産まないという生き方が定着したこと。女性の社会進出により晩婚化が進んだこと。子供の教育にかかる費用が増えたこと。などなどである。

 

結論の要約を先頭に配置したことにより、読み手はそれを意識しながら文章を読み進めることになります。読むのをどこでやめても、作者の意見は伝わります。これが結論を先に出す効果です。

なお、注意点があります。要約で作成した文を組み込んだら、必ず文章全体を読み返してください。特に、「起」の第一段落とのつながり、「結」の第四段落との重複感に注意してください。完成した文章に後から付け加える文ですので、全体のクールさを損なわないようにすることが大切です。

それでは、事例をもう一つ。第一章で使った、エントリーシートの事例です。

 

問:あなたが今までに最も力を入れて取り組んだ事。また、それによって学んだ事をご記入ください。

(字数制限400字)

今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだのです。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれません。私はさんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。それまで、チームのキャプテンや、学部代表の委員など、人の先頭に立つ機会があったのに気付いていなかったのです。自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。(395字)

 

この事例のように、「問いに答える」という文章では、「結論=答え」になります。問いは「最も力を入れて取り組んだ事」「それによって学んだこと」です。答えはどこに記述されているでしょう。一つ目の答えは「母校バドミントン部での後輩の指導」で、文章の先頭にあります。二つ目の答えは「人に思いを伝えるためには、模範となる行動を示すこと」で、文章の最後の方に書かれています。(太字部分)四百字という短い文章なので、こうして二つの答えが離れていてもそんなに違和感はありませんが、もっと長い文章になると問題が出てきます。二つの答えが文章の先頭に近いところに書かれている方が、読み手にとって理解しやすいことはいうまでもありません。どのように修正すればよいでしょう。

もとの文章で、最後の方にあった二つ目の答えは次の文です。

リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。

この内容を文章の先頭にも配置します。そのままコピーするわけにはいかないので一工夫が必要です。この文の肝となるところだけを抜き出してみましょう。そのために、久々に図を用いて文の構造を分析します。

 複雑な構造をした文で、全体は三つに分けられます。(1)の「~のためには」は目的を表す部分、(2)の「~行動を示す」は何が必要かを表す部分、(3)は文末部分です。

「学んだ事をご記入ください」という問いに対する答えですから、(3)の文末部分は外せませんね。(1)(2)のなかから、何を抜き出し、何を外すかを考えます。

言うまでもなく、(1)では「人に思いを伝えるためには」が重要です。「リーダーシップを発揮して」はそれを修飾しているに過ぎないので外すことにしましょう。

(2)では、「行動を示す」に矢印がたくさん入ってきています。これは外せません。では、「行動を示す」を修飾している三つの言葉のうちでどれを選択すべきでしょうか。「言葉だけでなく行動を示す」、「率先垂範の精神で行動を示す」、「模範となる行動を示す」のなかからの三択です。一般的には、人に思いを伝える手段は「言葉」です。でも、この事例ではそれを否定して、「行動」が必要だと述べています。ここが肝心なのです。したがって、「言葉だけでなく行動を示す」を選ぶことになります。

 (1)(2)(3)から選んだ言葉をつなげると、次のようになります。

人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく行動を示す必要がある事を学びました。

前の文とのつながりを良くするために、「そのなかで」を追加してできあがりです。

次に、元の文をどうするかを考えます。残った言葉は、「リーダーシップを発揮して」「率先垂範の精神で」「模範となる」です。組み合わせるとこんな文になります。

リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要があることを学びました。

この文中で、「必要があることを学びました」は、問いに対する答えであることを明示するためのフレーズですが、文章の先頭で既に答えてしまいましたから省略可能です。

リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるために、率先垂範の精神で模範となる行動を示しました。

あとは微調整です。前後の文とのつながりを考えて文末を手直しし、四百字という字数制限に収めるために、「リーダーシップを発揮して」を削除しました。最終版は次のとおりです。

 

今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。そのなかで、人に思いを伝えるには、言葉だけでなく行動を示す必要がある事を学びました。

私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだのです。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれません。私はさんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。思いを伝えるために、率先垂範の精神で模範となるよう行動したのです。それまで、チームのキャプテンや学部代表の委員など、人の先頭に立つ機会があったのに気付かなかった、自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。

(400字)

 

問いに対する答えを先頭に記載したことにより、読み手は最初の二行を読むだけで文章の趣旨を理解することができるようになりました。



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