2021年6月20日日曜日

第3章 美しく文章を構成するノウハウ(6)

さて、また、なお

ここまで、「段落の区切り方」「表題、見出しのつけ方」「起承転結」「要約のしかた」など、美しい文章を構成するための基本的なテクニックについて解説してきました。紙面の都合もありますので、仕上げにちょっとした応用編のテクニックをお伝えして、第三章を終わることにします。

「私たちが日常で書く文章のなかで最も頻度の高いものは電子メールかと思います。電子メールを作成する際、私は「さて、また、なお」を愛用しています。これは、電子メールに限らず、案内文書などビジネスで使える場面が多数あります。ぜひ読者の皆さんもご活用ください。まずは、「さて、また、なお」の使用方法を説明します。

「さて」は前置きが終わって本題に入るときに使います。

先日は、弊社ショールームにお越しいただきありがとうございました。

さて、その際に案内しました新商品について、詳しい説明をさせていただきたいと存じます。今月下旬で、ご都合のよい日時をご指定ください。

「また」は本題が複数あるときに、文章を次の本題に切り替える役割を果たします。

新商品は、弊社研究所の技術を結集したもので、数多くの特許が含まれています。性能は競合品をはるかに上回ります。

また、これまで販売しておりました商品についても、デザインをリニューアルいたしました。

「なお」は追伸を記載するときに使います。

どちらも自信をもってお薦めします。

なお、貴社を訪問する際は、先日不在にしておりました営業部長の●●も同行し、ご挨拶させていただきたいと思います。

では、さっそく練習問題です。次の電子メールによる会議の案内文を、「さて、また、なお」を使って、より美しい文章に手直ししてください。

 

支社長各位

皆様ご存知のとおり、本年度第一四半期の業績は好調で増収増益となりましたが、競合他社が近々新製品の発売を予定しており、第二四半期以降はより厳しい競争環境が想定されます。気を緩めることなく、活動量を維持してください。現時点での当社の商品開発の状況を共有し、今後のマーケティング戦略について議論するために、4月27日(水)9:30~17:30、東京本社第1会議室にて臨時の支社長会議を開催しますのでご出席ください。会議資料は、一週間前までにメールにて送付しますので、事前にお目通し願います。会議終了後、本社近隣の飲食店にて懇親会を開催する予定です。ご都合のつく方はご参加ください。費用は当日集金します。東京本社への出張が難しい方は、テレビ会議での出席も可能です。その場合は、4月18日(月)までに、事務局までご連絡ください。

以上  事務局:営業部 ○○ 内線:××××

 

電子メールであれ、手紙であれ、相手を特定した文書では、いきなり本題に入らず前置きがあるのが一般的です。相手が社外の方や、知人であれば挨拶から始めます。電子メールでは、手紙ほど形式が重視されませんので、「お世話になっております」といった簡単な挨拶で済ませる場合がほとんどでしょう。上記の事例は、社内向けですので挨拶は省略されています。では、前置きはどこまででしょうか。会議の案内文ですから、それに関係のない内容が前置きと考えればよいのです。「活動量を維持してください」というところまでです。この後に、「さて」を入れます。

練習問題の本題ではありませんが、会議の案内のなかで、日時や場所が文の途中に埋もれているのは、美しい日本語としては減点対象です。これは文の外にくくり出しましょう。

次に会議案内の終わりを見つけてください。「会議資料」について書かれた文は、会議の一部とみなします。終了後の懇親会は、任意参加のようですから、会議の続きということではありません。ここで話題が変わっているので、その前に「また」を入れることにします。

「なお」がくるのは、追伸がある場合です。この事例はいかがでしょう。懇親会の案内の後に、テレビ会議での出席について書かれています。これは出張ができない人だけに向けた追伸です。「なお」を使うと良い場面です。

それでは、「さて、また、なお」を使用し、形式も整えた文面をご覧ください。

 

支社長各位

皆様ご存知のとおり、本年度第一四半期の業績は好調で増収増益となりましたが、競合他社が近々新製品の発売を予定しており、第二四半期以降はより厳しい競争環境が想定されます。

さて、現時点での当社の商品開発の状況を共有し、今後のマーケティング戦略について議論するために、臨時の支社長会議を開催しますのでご出席ください。会議資料は、一週間前までにメールにて送付しますので、事前にお目通し願います。

日時: 4月27日(水) 9:30~17:30

場所: 東京本社 第1会議室

また、会議終了後、本社近隣の飲食店にて懇親会を開催する予定です。ご都合のつく方はご参加ください。費用は当日集金します。

なお、東京本社への出張が難しい方は、テレビ会議での出席も可能です。その場合は、4月18日(月)までに、事務局までご連絡ください。

以上  事務局:営業部 ○○ 内線:××××

 

文書はたいへん読みやすく、わかりやすくなりました。美しい電子メールです。

「さて、また、なお」は便利な道具ですが、常に使えるわけではありません。他の言葉の方が適当となる事例をあげておきます。

先日は、弊社ショールームにお越しいただきありがとうございました。その際に、○○部長様から、新製品に興味があるとのお言葉を頂戴いたしました。

    、あらためて貴社にうかがい、詳しい説明をさせていただきたいと存じます。今月下旬で、ご都合のよい日時をご指定ください。

傍線部に適切な言葉を入れてください。出だしはさきほどの事例とそっくりなのですが、今回は「さて」は当てはまりません。前置きと本題が連動しているからです。前置きのなかにある、○○部長からの言葉を受けて、本題の日程調整を行っていますよね。「さて」は、話題を切り替えるときには有効ですが、このように話題が継続しているときには使えないのです。このケースでの、私のお勧めは「つきましては」です。

新商品は、弊社研究所の技術を結集したもので、数多くの特許が含まれています。性能は競合品をはるかに上回ります。

    、価格についても既存品並みとなっており、たいへんコストパフォーマンスの高い商品です。

こちらも、二つ目の文を入れ替えました。傍線部には「また」を入れても特段の違和感はないのですが、「さらに」を入れると、「性能に加えて、コストパフォーマンスも高い」という新製品の長所をより強調した表現になり、得意先相手に新商品を宣伝するメールにぴったりです。

新商品は、弊社研究所の技術を結集したもので、数多くの特許が含まれています。性能は競合品をはるかに上回ります。

    、価格は従来品より若干高くなりますが、生産性向上により短期間で投資を回収できると考えます。

 今度は「また」も「さらに」もしっくりきません。「一方で」が良いと思います。二つの本題があって、それを並列するなら「また」、二つの本題が直列であるなら「さらに」、二つの本題を対比するなら「一方で」、という感じで使い分けてください。

2021年5月3日月曜日

第3章 美しく文章を構成するノウハウ(5)

 要約のしかた

要約とは、文章の要点をとりまとめることです。要約を行うには、文章の読解力と文章の作成力の双方が求められますので、国語の試験でもよく出題されます。字数は200字程度が一般的です。40字の文なら5つ、50字の文なら4つ以内にまとめなければいけません。さらに、字数が減るほど要約の難度は上がります。ここでは、共通事例について、200字、100字、50字の3種類の要約を行って、そのコツをお伝えしていきます。

まずは第一段落です。段落のなかから要点を抜き出す際、着目するのは最初と最後です。文章全体と同様に、大事なことは最初と最後に書かれている確率が高いからです。この段落では、最初の「少子化の影響により、日本の人口が減少している」が要点であることは言うまでもありません。もう一つ、要約の字数に余裕があるならば、少子化の原因も取り上げておきたいと思います。

 少子化により、日本の人口が減少している。数十年後には、現在の半分になってしまうという予測もある。単純に考えれば、二人の親から二人の子供が生まれて、ようやく人口が保たれることになる。ご存知のとおり、子供の数の平均は、二人を大幅に下回っている状況なのだ。少子化にはさまざまな原因が想定される。結婚しない、結婚しても子供を産まないという生き方が定着したこと。女性の社会進出により晩婚化が進んだこと。子供の教育にかかる費用が増えたこと。などなどである。

<要約>

少子化により、日本の人口が減少している。結婚しない、子供を産まないという生き方の定着、女性の社会進出による晩婚化、教育費の増加などが原因である。(72字)

 第二段落では、少子化による人口減少の影響と対策について書かれています。字数を最小限に絞るのであれば「人口減少により、さまざまな負の影響が出てくる」ですが、多少でも字数に余裕があれば、具体的な影響を列挙しておきたいところです。さすがに、対策まで書くと字数が多くなって要約にならないので、「対策が必要である」くらいにしておきます。

 このまま人口が減少すると、さまざまな負の影響が出てくる。多くの企業は、人口減少で縮小する国内市場を相手にしていては、成長することも利益を上げることも難しくなり、これまで以上に海外市場へ目を向けざるを得ない。一方で労働力が不足し、外国からの移民を受け入れないと、あらゆる産業を支え切れなくなるだろう。さらに、社会インフラを維持できない自治体が出てくる。道路、電気、水道などの保守コストに見合うだけの料金収入や税収が得られなくなるからだ。過疎地域から街の中心部への移住を推進する必要があるだろう。社会保障制度が維持できるかどうかも心配だ。少子化の影響で、人口に占める高齢者の割合が増加している。国の借金は世界トップの水準にあり、将来の年金の減額や支給開始年齢の引き上げ、医療保険・介護保険の自己負担の増額などが避けられない。

<要約>

人口減少により、国内市場の縮小、労働力不足、社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるなどの負の影響が出てくる。それぞれに対策が必要である。(71字)

 第三段落は、少子化対策が遅々として進んでいないこと、その原因が投票率の高い高齢者に不人気な政策であることを述べています。この二つのことがらを要約に入れればよいでしょう。

 こうした由々しき事態にもかかわらず、国会や政府の動きはにぶい。少子化対策として保育園の増設など、子育て世代支援の政策は打ち出されているが、効果が出るにしても時間がかかる。年金や医療・介護保険の見直しは遅々として進んでいない。なぜなら、こうした政策は選挙の票に結びつかない、どころか、選挙の票を減らしかねないからである。選挙のたびに報道される、世代別の投票率を思い出していただきたい。高齢層ほど高く、若年層ほど低い。すなわち、高齢者に不人気な政策は、どの政党にとっても選挙対策上とりにくいと考えられるのだ。

 <要約>

少子化対策に関する国会や政府の動きはにぶい。選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策はとりづらいからである。(53字)

第四段落の要約は、「3.結論が先」で実施済です。次のとおりでした。

<要約>

将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(48字)

  それでは、四つの段落の要約をつなげてみます。

 少子化により、日本の人口が減少している。結婚しない、子供を産まないという生き方の定着、女性の社会進出による晩婚化、教育費の増加などが原因である。人口減少により、国内市場の縮小、労働力不足、社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるなどの負の影響が出てくる。それぞれに対策が必要である。少子化対策に関する国会や政府の動きはにぶい。選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策はとりづらいからである。将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(244字)

 50字ほどの字数オーバーが発生しました。どこを削ればよいでしょうか。10字~20字程度のオーバーならば、文中の言葉を字数の少ない表現に変更することで対応できるのですが、50字ともなると本格的な削減が必要です。このケースでは、「少子化の原因」「人口減少の影響」について、それぞれ複数の例示がなされています。ここが着目点です。

少子化の原因(45字): 結婚しない、子供を産まないという生き方の定着、女性の社会進出による晩婚化、教育費の増加など

人口減少の影響(38字): 国内市場の縮小、労働力不足、社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるなど

これを半分にすれば40字程度を減らすことができます。少子化の原因の方は、文頭からの3つの原因を別の言葉を使って短く表現することで対応しましょう。

結婚や出産に関する考え方の変化、教育費の増加など(24字)

人口減少の方は、例示の数を減らすしか手がないようです。後に出てくる、高齢者に不人気な政策に直結するものを残すべきです。

社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるなど(24字)

残り9字まできました。あと一息です。

少子化により、日本の人口が減少している。結婚や出産に関する考え方の変化、教育費の増加などが原因である。人口減少により、社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるなどの負の影響が出てくる。それぞれに対策が必要である。少子化対策に関する国会や政府の動きはにぶい。選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策はとりづらいからである。将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(209字)

ここから先は、文のつながりを確認しながら、細かい表現の調整で字数を減らしていきます。最初からチェックしていくと、二つ目の文と三つめの文で、それぞれ少子化の原因と人口減少の影響を例示していますが、どちらも「~など」という表現になっています。同じ表現が続くのはクールではないので、三つ目の文では「~といった」に変更することにします。(1字増加)「それぞれに対策が必要である」という文と、「少子化対策に関する国会や政府の動きはにぶい」という文を統合することにより、若干の字数の節約ができそうです。(10字削減)最後の文で、「目をそむけることなく」という表現を逆にして、「直視し」に変更します。(8字削減)これで、200字に収まりました。

少子化により、日本の人口が減少している。結婚や出産に関する考え方の変化、教育費の増加などが原因である。人口減少により、社会インフラや社会保障制度の維持が難しくなるといった負の影響が出てくる。それぞれに対策が必要だが、国会や政府の動きはにぶい。選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策はとりづらいからである。将来の問題を直視し、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(192字)

では、次にこの要約をさらに100字にまで縮めます。少子化の原因と人口減少の影響の例示は削らざるをえません。削除するとこんな感じになります。

少子化により、日本の人口が減少している。将来、さまざまな負の影響が出てくる。対策が必要だが、国会や政府の動きはにぶい。選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策はとりづらいからである。将来の問題を直視し、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(133字)

あと、30字ほどです。字数を減らすには、複数の文を合体させる手法があります。二つ目の文で負の影響について説明し、三つめの文でその対策について述べ、さらに四つ目の文で対策が進まない理由が書かれています。つながりの強いこの三つの文を合体します。また、最後の文で、本題ではない「将来の問題を直視し」を削除します。

 少子化により、日本の人口が減少している。負の影響への対策が必要だが、選挙の投票率が高い高齢者に不人気の政策なので、国会や政府の動きはにぶい。次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(100字)

 目標達成しました。200字での要約と見比べてください。200字の方は各段落の要約を含んでいますので、全体の構成まで把握することができますが、100字まで減らすと、結論とそこにいたる経緯しか記述されていません。

これをさらに50字まで減らすならば、最後の結論の文は生かすとして、それ以外はバッサリ切り捨てる必要があります。結論に至る経緯をどこまで短くできるかが勝負になります。少子化や人口減少に触れるのはあきらめるしかありません。高齢者に不人気な政策であることも、説明に字数を要するのでカットします。選挙の票に関する記述だけを残し、100字への要約の際に削除した「将来の問題を直視し」を復活させるのがよいでしょう。

 選挙の票に囚われず、将来の問題を直視し、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。(50字)

 このように、要約の度合を高める過程では、言葉を削るだけではなく、別の言葉に置き換えるという技も必要になります。

今回は、200字から100字、50字へとだんだんに字数を減らしていきましたが、この方法は確実ではあるものの効率的とはいえません。通常は、目標とする字数に向けてダイレクトに要約を行います。そのコツをまとめて、本項目を終わることにします。

<共通のコツ>

① 各段落から要点となる文を抜き出してきて、それをつなげるのが基本である。段落の最初と最後に着目する。

② 関連がある複数の文を統合することにより字数を減らすことができる。その際、文が長くなり過ぎないように注意すること。

③ 例示の数を絞り込むことにより字数を減らすことができる。例示を別の言葉に置き換える、代表的な例だけを記載するなどの方法がある。

④ 10字から20字程度の字数削減は、同じ意味で字数の少ない言葉への置き換え、文末の表現の変更などで対応する。最後の手段は漢字を使用することによる削減、読点の削除による削減である。

<100字への要約でのコツ>

① 文章全体を要約することはあきらめる。「結論に至る経緯の説明」と、「結論」の二つの文の構成を基本とする。

② 「結論」の文を先に作成し、残りの字数で「経緯の説明」を収めるように工夫する。

<50字への要約でのコツ>

① 「結論に至る経緯の説明」と、「結論」を含んだ一つの文にまとめるのが基本。結論が短ければ二つの文にすることも可能である。

② 「経緯の説明」は、文中の表現をそのまま使用することは字数のうえで難しい。別の短い言葉に置き換える。

こぼれ話

 こぼれ話  <文章中の注釈について>

文章中に、※や(1)をつけて、本文が一段落したところに別途説明を記載することを注釈と呼びます。この注釈には三種類があります。

① 本文中に記載すると読みづらくなるので別の場所に記載する。でも、重要な内容で必ず読んでほしいもの。第2章「箇条書き」の事例にあった注釈がこれにあたります。こうした注釈は、本文の直後に配置します。

 

弊社の○○サービスをご希望のお客様は、電子メール(※1)にてお申込みください。

1.電子メールにご記入いただく事項

 ・ご氏名

    ・ご住所

    ・電話番号

    ・ご希望されるサービスの種類(※2)

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※1 弊社からの返信メールを受信できるメールアドレスをご使用ください。

※2 ①メールマガジン、②通販カタログ、③新製品・キャンペーンのご案内
(いずれか、または全てをお選びください)

 

② 本文中の難解な用語や、引用の出典を記載するもの。欄外のページのフッターに配置されたり(脚注)、文章全体の末尾にまとめて掲載されることもある。

③ 本文中に記載したくない内容を、目立たないようにページの隅に小さな文字で記載するもの。これは、広告にしばしば見られる注釈で、要注意です。

 

特別優遇金利キャンペーン

    100万円以上の定期預金 金利1.0% (3ケ月もの※)

※ 3ケ月の満期後は自動継続となり、一般金利が適用されます。

 

この広告の場合、読み手に知らせたいのは優遇金利についてです。実際には、3ケ月という短い期間に限っての優遇で、それを過ぎると一般金利に戻ってしまうわけですから、メリットは大したことないのです。注釈がないと、顧客をだますことになるので記載してありますが、ここは読ませたくないのが広告主の本音でしょう。

このように、注釈には「読ませたい注釈」「読ませたくない注釈」があるので、後者の場合には、小さな字で書かれているほど重要性が高いと判断し、熟読するよう心がけてください。

2021年3月13日土曜日

第3章 美しく文章を構成するノウハウ(4)

 結論が先

文章の結論は、先に書いてください。読み手がびっくりするような結論が控えていて、それに向けてだんだんに期待感を高めていくような文章であれば、結論を最後にまわす効果がありますが、皆さんは推理小説を書くわけではありませんので、ほとんどの場合、結論を隠しておく必要はありません。

 と、ここまで読んでおかしいぞ、と思われた方がほとんどでしょう。一つ前の「起承転結」の項目で、結論は最後と言ったじゃないかと。実は、どちらも誤りではありません。最初と最後に、二度結論を書いてくださいという意味です。起承転結の「起」の前に、結論を書いておいてくださいということです。

 読み手は、皆さんの書いた文章を最後まで読んでくれるとは限りません。最初だけ読んで、興味がなければ途中でやめてしまうかもしれないからです。できるだけ多くの人に自分の考えを伝えたい、という文章であれば、そのための工夫が必要なのです。

結論を先に書いておくことによって、最初しか読まなかった人にも考えを伝えることができます。読み手からすれば、自分にとって興味のある内容か、自分として賛同できる意見かどうかを、短時間で読み取ることができます。

 そうは言っても、結論から書き始めるのは抵抗感がある、書きにくいという方が多いでしょう。そのとおりと思います。安心してください。文章全体を書き終わってから、結論を抜き出してきて先頭に加えてやればよいのです。表題や見出しを、後から考えるのと一緒です。

それでは、結論の抜き出し方と、先頭への加え方について考えてみましょう。共通事例を用います。起承転結の「結」、第四段落に着目します。

 

政治家も、国民も、将来のことに目を向けようとしない現状のままでは、日本は沈没しかねない。これを何とかするには、選挙制度の改革が必要である。選挙制度については、地域による一票の格差にばかり議論が集中しているが、世代間の投票率の差の方がもっと大きな問題である。若者の投票率を上げるために、ネットでの投票を可能にするのが一つの対策になるだろう。世代ごとの投票率によって、一票の重みづけを変える、例えば20歳代の投票率が60歳代の半分だったら、票の重みを2倍にするといった仕組みも考えられる。「選挙に行ってもどうせ何も変わらないから」という若年層の諦めムードを払拭する、将来を担う若者の意見を反映できる、そんな抜本的な改革が求められている。

 

もちろん、この段落全体を、そのまま文章の先頭にコピーすればよいというものではありません。文章中に同じ文が二度出現するのはクールではない(無駄がある)からです。新たに、結論を要約した文を作る必要があります。(文章を要約する際のポイントについては後の項目で詳細を解説します)この程度の長さの文章であれば、二行以内にまとめることを目標としましょう。

「表題と見出し」の項目でも取り上げましたが、この段落では選挙制度の改革を訴えていますが、その目的は選挙での投票率が低い若者の意見を政治に反映させることです。要約のなかで選挙制度に触れると、選挙制度に関する論説だという誤解を受ける可能性があるので、外すことにします。こんな感じでしょうか。

 

将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への改革が求められる。

 

結論の要約としてはこれでオーケーなのですが、文章の先頭にこの文を置くと、「なぜ」この結論が導かれたかの説明がないために唐突感があります。このような場合は、「なぜ」を説明する文(傍線部)を作って合体させるとよいでしょう。

 

現在の日本では、政治家も国民も、目前の選挙の票や自己の利益のことしか考えていない。将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への変革が求められる。

 

できました。これを文章の「起」の前に置いてみます。

 

現在の日本では、政治家も国民も、目前の選挙の票や自己の利益のことしか考えていない。将来の問題から目をそむけることなく、次世代を担う若者の意見を反映できる政治への変革が求められる。

少子化により、日本の人口が減少している。数十年後には、現在の半分になってしまうという予測もある。単純に考えれば、二人の親から二人の子供が生まれて、ようやく人口が保たれることになる。ご存知のとおり、子供の数の平均は、二人を大幅に下回っている状況なのだ。少子化にはさまざまな原因が想定される。結婚しない、結婚しても子供を産まないという生き方が定着したこと。女性の社会進出により晩婚化が進んだこと。子供の教育にかかる費用が増えたこと。などなどである。

 

結論の要約を先頭に配置したことにより、読み手はそれを意識しながら文章を読み進めることになります。読むのをどこでやめても、作者の意見は伝わります。これが結論を先に出す効果です。

なお、注意点があります。要約で作成した文を組み込んだら、必ず文章全体を読み返してください。特に、「起」の第一段落とのつながり、「結」の第四段落との重複感に注意してください。完成した文章に後から付け加える文ですので、全体のクールさを損なわないようにすることが大切です。

それでは、事例をもう一つ。第一章で使った、エントリーシートの事例です。

 

問:あなたが今までに最も力を入れて取り組んだ事。また、それによって学んだ事をご記入ください。

(字数制限400字)

今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだのです。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれません。私はさんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。それまで、チームのキャプテンや、学部代表の委員など、人の先頭に立つ機会があったのに気付いていなかったのです。自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。(395字)

 

この事例のように、「問いに答える」という文章では、「結論=答え」になります。問いは「最も力を入れて取り組んだ事」「それによって学んだこと」です。答えはどこに記述されているでしょう。一つ目の答えは「母校バドミントン部での後輩の指導」で、文章の先頭にあります。二つ目の答えは「人に思いを伝えるためには、模範となる行動を示すこと」で、文章の最後の方に書かれています。(太字部分)四百字という短い文章なので、こうして二つの答えが離れていてもそんなに違和感はありませんが、もっと長い文章になると問題が出てきます。二つの答えが文章の先頭に近いところに書かれている方が、読み手にとって理解しやすいことはいうまでもありません。どのように修正すればよいでしょう。

もとの文章で、最後の方にあった二つ目の答えは次の文です。

リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要がある事を学びました。

この内容を文章の先頭にも配置します。そのままコピーするわけにはいかないので一工夫が必要です。この文の肝となるところだけを抜き出してみましょう。そのために、久々に図を用いて文の構造を分析します。

 複雑な構造をした文で、全体は三つに分けられます。(1)の「~のためには」は目的を表す部分、(2)の「~行動を示す」は何が必要かを表す部分、(3)は文末部分です。

「学んだ事をご記入ください」という問いに対する答えですから、(3)の文末部分は外せませんね。(1)(2)のなかから、何を抜き出し、何を外すかを考えます。

言うまでもなく、(1)では「人に思いを伝えるためには」が重要です。「リーダーシップを発揮して」はそれを修飾しているに過ぎないので外すことにしましょう。

(2)では、「行動を示す」に矢印がたくさん入ってきています。これは外せません。では、「行動を示す」を修飾している三つの言葉のうちでどれを選択すべきでしょうか。「言葉だけでなく行動を示す」、「率先垂範の精神で行動を示す」、「模範となる行動を示す」のなかからの三択です。一般的には、人に思いを伝える手段は「言葉」です。でも、この事例ではそれを否定して、「行動」が必要だと述べています。ここが肝心なのです。したがって、「言葉だけでなく行動を示す」を選ぶことになります。

 (1)(2)(3)から選んだ言葉をつなげると、次のようになります。

人に思いを伝えるためには、言葉だけでなく行動を示す必要がある事を学びました。

前の文とのつながりを良くするために、「そのなかで」を追加してできあがりです。

次に、元の文をどうするかを考えます。残った言葉は、「リーダーシップを発揮して」「率先垂範の精神で」「模範となる」です。組み合わせるとこんな文になります。

リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるためには、率先垂範の精神で模範となる行動を示す必要があることを学びました。

この文中で、「必要があることを学びました」は、問いに対する答えであることを明示するためのフレーズですが、文章の先頭で既に答えてしまいましたから省略可能です。

リーダーシップを発揮して人に思いを伝えるために、率先垂範の精神で模範となる行動を示しました。

あとは微調整です。前後の文とのつながりを考えて文末を手直しし、四百字という字数制限に収めるために、「リーダーシップを発揮して」を削除しました。最終版は次のとおりです。

 

今までに最も力を入れて取り組んだ事は、母校バドミントン部での後輩の指導です。そのなかで、人に思いを伝えるには、言葉だけでなく行動を示す必要がある事を学びました。

私は高校生のときに、才能と体力に限界を感じ、十年間続けてきた野球を辞めてバドミントン部に入部しました。「野球を辞めたことを後悔したくない」と強く思い、バドミントンに打ち込んだのです。大学入学後、顧問の先生から乞われてコーチに就任し、真剣に練習に取り組まない後輩を厳しい口調で指導しました。しかし、彼らは厳しさを嫌がってついてきてくれません。私はさんざん悩み考えた末に、共に練習に入り、自身も一部員という意識で指導することにしました。思いを伝えるために、率先垂範の精神で模範となるよう行動したのです。それまで、チームのキャプテンや学部代表の委員など、人の先頭に立つ機会があったのに気付かなかった、自らに欠けている姿勢を知った貴重な経験でした。

(400字)

 

問いに対する答えを先頭に記載したことにより、読み手は最初の二行を読むだけで文章の趣旨を理解することができるようになりました。



2021年1月23日土曜日

第3章 美しく文章を構成するノウハウ(3)

  起承転(展)結

文章構成の基本は起承転結にあると言われます。小中学校の国語の授業でも起承転結が出てきます。起承転結で書かれた文章が、わかりやすく、読んで心地よいのは事実です。(すなわち美しい文章だということ)だからといって文章は全て起承転結を意識して作成しなければならない、ということではありません。ビジネス文書や論文を書くときには、起承転結の構成よりも論理的な一貫性の方が重視されるからです。この項目では、起承転結とは何か、起承転結にはどんなパターンがあるか、そしてどんな効果が期待できるかについて解説します。それを理解することによって、起承転結の構成を使うべき場面も見えてくることと思います。

起承転結という言葉は、絶句という漢文の四行詩から生まれたものです。一句目(一行目)が起句(文意を書き起こす)、二句目が承句(文意を受けて掘り下げる)、三句目は転句(題材を変えるなどして文意を発展させる)、四句目が結句(全体をまとめて結びをつける)と呼ばれます。

こちらは、中国唐時代の詩人、杜甫の作による五言絶句(漢字五文字の四行詩)です。

戦争が終わったのに、故郷に帰ることができない杜甫の想いが描かれています。起承転結のお手本のような作りとなっていますね。


江 碧 鳥 愈 白

山 青 花 欲 然

   今 春 看 又 過

  何 日 是 帰 年
 

  江碧にして鳥いよいよ白く

  山青くして花然(も)えんと欲す

  今春看す(みすみす)又過ぐ

  何(いず)れの日か是れ帰年ならん

長江は深いみどり色に澄み、鳥たちはいっそう白く見える。

山は木々が青く生い茂り、花は燃えるような赤色に染まっている。

こうして春は過ぎ去っていく。

故郷に帰ることができるのはいつの日だろうか。

起承転結の例としては、しばしば四コマ漫画が使われます。漫画ですから、最後の「結」は「オチ」になる、というところが文章との違いです。この四部構成は、中国や日本だけの文化ではありません。ヨーロッパで生まれたクラシック音楽は、ソナタという形式で作曲されているものが多いのですが、このソナタ形式は、「提示部」「展開部」「再現部」「終結部」という、まさに起承転結の構成となっています。さらに交響曲の多くは、ソナタ形式の第一楽章、穏やかな第二楽章、明るく弾む第三楽章、そして再びソナタ形式の第四楽章から構成されています。二重の起承転結構造ということができるでしょう。起承転結で作られた文章や音楽が心地よいのは、万国共通のことがらなのです。

起承転結の「転結」にはいくつかのパターンがあります。「転」という字が使われているので、話題を変えなければいけないように思われがちですが、必須ではありません。文意を発展させて、「結」の結論や結びにつなげていけば良いのです。「起承転結」ではなく、言わば「起承展結」となるわけです。事例で確認しましょう。「起」と「承」はパターン間で共通とします。

(「起承展結」はこのブログ内で用いているだけで、一般的な言葉ではありませんのでご注意を)

起) 安部首相は消費税の10%への引き上げを選挙公約にした。

承) 衆議院選挙で自民党は大勝利した。

① 話題を変えないパターン

転) 安定多数を得た与党は、国会での主導権を維持している。

結) 安部首相は予定どおりの消費税引き上げを決定するだろう。

② 話題を変えるパターン

転) 引き上げの条件である景気は、アベノミクスの効果で持ち直している。

結) 安部首相は予定どおりの消費税引き上げを決定するだろう。

①は、選挙公約の内容→選挙結果→選挙結果を受けての国会運営→選挙公約の実行、という流れで、話題の転換はありません。「起承展結」です。②は、選挙公約の内容→選挙結果→経済政策の効果→選挙公約の実行、になっています。選挙結果から経済政策の効果へと、話題が大きく転換されています。「起承転結」です。

さらに、「起承展結」「起承転結」それぞれの「結」の部分で、そこまでの流れに沿った文章の結びとするパターンと、流れを大きく変えた(あるいは否定した)結びとするパターンがあります。後者は、いわば4コマ漫画の「オチ」に該当するものです。この視点から再度事例をみると、①②ともに、公約をそのまま実行していますので、前者の、流れに沿った結びといえます。では、後者はどんな作りになるのでしょうか。

③ 話題を変えずに流れを否定するパターン

転) 選挙後に、党内から引き上げへの異論が噴出ている。

結) 安部首相は消費税の引き上げを断念するだろう。

④ 話題を変えて流れを否定するパターン

転) 新興国経済の不調により、引き上げの条件である景気が悪化している。

結) 安部首相は消費税の引き上げを断念するだろう。

③は、選挙公約の内容→選挙結果→選挙後の党内意見→選挙公約の取り下げ、という流れです。選挙の話題から逸れてはいませんが、勝利で当然公約を実行すべきところを断念する、というどんでん返しで終わっています。④は、選挙公約の内容→選挙結果→新興国が原因の景気の悪化→選挙公約の取り下げと、選挙結果とは関係ない、景気の話題に変えたうえでのオチとなっています。起承転結というと、この④のパターンが意識されることが多いのですが、実際には、ほとんどの文章は自然な①のパターンで作成されています。無理に、④のパターンに持ち込もうとする必要はありません。ちなみに、本章の共通事例も四つの段落から成り、①のパターンで「起承展結」の構成となっています。

次に、どのような文章において起承転結の構成が有効かをお伝えすることにしましょう。そのために、起承転結以外の構成で書かれた事例を見ていただきます。

 

一億総活躍社会の実現に向けて、女性の社会進出を後押ししようと、全国各地で保育所の増設が進められている。

しかし、保育所ができても保育士が不足してフル稼働できない事例が相次いでいるという。これは、保育士の賃金が他の職業に比べて低いためである。同じ現象は、高齢者用施設の介護士でも起きている。

公共の福祉に関わる職業においては、人材の需給ギャップを埋めるために、国や自治体が補助金で賃金差を埋めるなど、ヒトを重視した政策が必要である。

 

この文章の構成は、「Aである。(Aを受けて)Bである。(したがって)Cである」という形になっています。ホップ、ステップ、ジャンプという感じです。この三段階の構成は、さまざまな場面で出てきます。「大前提」「小前提」「結論」という流れで演繹的な推論をする三段論法が代表例です。

 

犬の足は四本である。 → 大前提:普遍的な事実

シェパードは犬の一種である。 → 小前提:個別の事実

シェパードの足は四本である。 → 結論

 

保育士の事例は三段論法ではありませんが、第一段落で「A(保育所の増設)という事実」を示し、第二段落で「B(保育士の不足)という新たな事実」を示し、第三段落で「(A、Bを総合して、)C(ヒトを重視した政策の必要性)という主張(結論)」を導き出している、という全体の構造は共通です。すなわち、「起承結」の三段階の構成が、結論(意見や主張)を記述する文章の基本なのです。

ここに、もう一つの段落(傍線部)を付け加えて、起承転結の構成に変えてみます。

 

一億総活躍社会の実現に向けて、女性の社会進出を後押ししようと、全国各地で保育所の増設が進められている。

しかし、保育所ができても保育士が不足してフル稼働できない事例が相次いでいるという。これは、保育士の賃金が他の職業に比べて低いためである。同じ現象は、高齢者用施設の介護士でも起きている。

これまでの政治は、ハード(ハコモノ)優先で行われてきたが、人口が減少し始めている日本においては、ソフト(ヒト)に目を向けないと解決できない問題が多い。

公共の福祉に関わる職業においては、人材の需給ギャップを埋めるために、国や自治体が補助金で賃金差を埋めるなど、ヒトを重視した政策が必要である。

 

さて、「転」の位置に段落を加えたことにより、どんな効果がみられるでしょうか。このケースでは、もともと作者が言外に込めていた思いを第三段落に表現した、という印象です。作者は結論として、ヒトを重視した政策が必要だと言っているのですが、そもそも「ヒト」という言葉にカタカナを使って強調しているのは、それに対峙する「モノ」に偏った政治を批判する気持ちが込められていたから、と考えられるのです。第三段落を追加したことにより、作者の意図が確実に伝わるようになりました。「転」は結論を導き出す役目、結論に向かって文章を盛り上げる役目を担っています。

このように、起承転結の構成において、「転」はおまけの場合が多いのです。パターン分けした事例を振り返ってみましょう。事例のなかから「転」を抜きます。

パターン①②

起) 安部首相は消費税の10%への引き上げを選挙公約にした。

承) 衆議院選挙で自民党は大勝利した。

結) 安部首相は予定どおりの消費税引き上げを決定するだろう。

パターン③④

起) 安部首相は消費税の10%への引き上げを選挙公約にした。

承) 衆議院選挙で自民党は大勝利した。

結) 安部首相は消費税の引き上げを断念するだろう。

パターン①②では、「転」を抜いても文章の意味が通じています。一方、パターン③④では、自民党が大勝利したのに、なぜ増税を断念するのかが不明で、文章内に矛盾が生じています。パターン①②と③④の違いは、文章全体の流れに沿った結論か、流れを否定する結論かということでした。後者の場合には、流れを反転させるための「転」の存在が不可欠で、前者は流れを補完する役割なので「転」はおまけということになるのです。

それでは、練習問題です。次の文章を、起承転結に区切ってください。もし、起承転結のどれかが欠けているならそれも指摘してください。

 

人口減少が進む○○県△△市では、税収の落ち込みにより財政状況が悪化している。公共施設の建設・補修は延期や中止が相次いでいる。水道料金は県内で最も高い。市では県外からの移住を促進するため、農作業体験のイベント開催や、空き家の無償貸与など様々な施策を展開している。本年の転入者は二十人と過去最高を記録した。しかし、それより一桁多い数の転出が続いている。施策は焼け石に水の状況である。

 

皆さん、困られたのでは。実は、この文章は「結」が欠けているのです。まず「起」ですが、△△市の財政状況に関する書き出しですので、その説明が一段落するところで区切ります。水道料金までです。次に「承」は、財政状況悪化を受けての市の施策と結果の説明です。転入者の数が最高を記録したという文までです。ここで話題は転じて、施策がうまくいったように見えて、実態は焼け石に水だということが書かれています。「転」ですね。文章はこれで終わってしまいました。そもそも、皆さんはこの文を読んで、尻切れトンボのような気がしませんでしたか。

 

起)人口減少が進む○○県△△市では、税収の落ち込みにより財政状況が悪化している。公共施設の建設・補修は延期や中止が相次いでいる。水道料金は県内で最も高い。

承)市では県外からの移住を促進するため、農作業体験のイベント開催や、空き家の無償貸与など様々な施策を展開している。本年の転入者は二十人と過去最高を記録した。

転)しかし、それより一桁多い数の転出が続いている。施策は焼け石に水の状況である。

 

この文章は論説調で書かれ、「転」を設けて次に作者の意見が来るぞ、と思わせたまま終わっています。焼け石に水で締めくくってしまっては、△△市には救いがありません。これではいけません。もし、この文章が事実を伝えるだけの目的であれば、最後の二つの文を次のよう(傍線部)に変えて、「承」に組み込めば良いのです。

 

承)市では県外からの移住を促進するため、農作業体験のイベント開催や、空き家の無償貸与など様々な施策を展開している。本年の転入者は二十人と過去最高を記録した。しかし、それより一桁多い数値の転出が続き、施策の効果は限定的なものにとどまっている。

 

一方、もともとの「転」を生かすならば、最後に「結」となる文を加えます。「転」を入れたら、セットで「結」が必要なのです。

 

結)少子高齢化により、△△市のような地方都市では長期的な人口減少は避けられない。過疎地域から市街地への住民の移住を進めてコンパクトな街づくりを目指すなど、根本的な対策が必要である。

 

ここまでの事例(共通事例、保育士の事例、△△市の事例)は全て論説調の文章でした。こうした、作者が意見を述べる文章において、起承転結の構成が、効果的であることをご理解いただけたことと思います。エントリーシートや小論文、作文なども同様といえます。

最後に、起承転結に関するノウハウを整理して本項目を終わることにします。

 

① 起承転結の構成は、全ての文章に必須のものではない。

② 事実だけを伝える文章では、「起承」だけの構成でよい。

③ 「結」が文章の流れを逆転させる(否定する)ものでない限り、
     「転」は省略可能である。

④ 意見を述べる文章では、起承転結の構成が効果的である。

⑤ 四部構成の文章には、「起承展結」と「起承転結」がある。

⑥ 「転」を設けたら、セットで「結」が必要である。

2021年1月2日土曜日

第3章 美しく文章を構成するノウハウ(2)

 表題と見出しのつけ方

本項では、表題や見出しのつけ方を解説します。最初に、「表題」と「見出し」の違いを確認しておきましょう。「表題」は「標題」とも書きますが、その字のとおり書物や文章の題名(タイトル)です。「見出し」とは、文章の前に示す短い言葉で、内容を一見して理解できるように作られます。このブログでいえば、先頭にある「美しい日本語の書き方」は、あたりまえですが表題です。各章につけられている「はじめに」「美しい文章を書くための鉄則」なども表題とみてよいでしょう。表題は文章全体として何について書かれているかを表していますが、具体的な内容を示してはいない場合が多いのです。「美しい文章を書くための鉄則」が何なのかは、表題を見ただけではわかりません。小説のタイトルもしかり。「雪国」というタイトルからは、雪国が舞台となっていることはわかりますが、内容は皆目見当がつきません。それに対して、見出しの方は具体的な内容を伝えることが意識されます。このブログの各章における個別の項目につけられた、「平易な言葉を使う」「短い文を心がける」などは見出しということになります。この区別をつけておいてください。

それでは、表題をつける練習です。共通事例は四つの段落から構成されていますが、その段落の一つひとつに表題をつけてみることにしましょう。次の中から適切なものを選んでください。

 

① 日本が抱える少子化問題

② 将来の問題を直視する政治を

③ 選挙制度改革の必要性

④ 人口減少による影響と対策

⑤ 世代による投票率の違いとは

⑥ 少子高齢化への対策が進まない理由

 

文章を最初から見ていきます。第一段落には、少子化問題とその原因が書かれています。表題は①の「日本が抱える少子化問題」がぴったりです。第二段落は少子化に伴う人口減少による将来的な影響と、その対策が書かれています。第二段落の表題としては「人口減少による影響と対策」が良いでしょう。第三段落には、少子高齢化に対応する政策が遅々として進まない理由が記述されています。表題は⑥「少子高齢化への対策が進まない理由」となります。ここまでは比較的簡単です。さて、第四段落には、若者の意見を政策に反映するために、選挙制度の改革が必要であることが述べられています。では、表題は③「選挙制度改革の必要性」でしょうか。ちょっと待ってください。確かに選挙制度の改革が必要だとは書かれていますが、その目的に着目しなければなりません。一般に、「選挙制度の改革」と言えば、想像されるのは一票の格差を是正するための、定数削減や選挙区間での定数変更です。でも、第四段落でいう改革は目的が違います。若者の意見を政策に反映するための改革です。将来の問題を直視した政策を実現するための改革です。表題をつけるなら、②「将来の問題を直視した政治を」が適切といえるでしょう。

このように、多くの場合、表題は文章中のキーワードを抜きだすことによって設定できますが、中には文章中にない新たな言葉を用いる必要があるケースもあるのです。

次に、事例の文章全体に表題をつけるとしたらどうでしょう。各段落につけた表題の中から、文章全体にふさわしいものを選んでください。これは簡単です。この文章では第一段落から第三段落までは、既知の事実や予測の記述で、最後の第四段落に作者の意見が書かれています。この文章の肝は第四段落にあると言えます。全体の表題としても、「将来の問題を直視した政治を」がふさわしいのです。

では、表題はこのくらいにして、見出しについて考えてみましょう。見出しの代表例は新聞や雑誌にあります。新聞の記事は発生した事実のみが書かれていますので、それを要約した見出しになっています。

 

○○総理大臣は、20日に開催される国際■■会議に出席するため、本日政府専用機で××国の首都△△に到着し、夕刻に●●大統領と個別会談を行った。そのなかで、○○総理大臣は、××国で計画されている高速鉄道建設において、日本の技術を導入することを条件に、□□億円の円借款を供与する準備があることを表明した。●●大統領は、前向きに検討することを約束した。

 

この記事は、○○総理と●●大統領の会談の中身に関する報道ですから、見出しは「○○総理、××国高速鉄道建設への支援を表明」といった感じになるでしょう。

同じ新聞でも、スポーツ紙や夕刊紙になると、総合紙や経済紙とはだいぶ違います。どちらかといえば、事実を正確に、客観的に伝えるよりは、記事の面白さを優先した編集方針となっているからです。雑誌に近いと言えるでしょう。読者の興味を引くような、思わず買いたくなるような見出しが求められるのです。

 

懲りない○○知事 今度は5泊7日の米国“花見外遊”敢行

これが公正? 新「五輪エンブレム選考」またデキレースか

報道スタンスに疑義 ●●氏らキャスター降板 「偏ってるんです、私」

 

 これは、夕刊紙の見出しを抜き出してきたものです。「懲りない」「これが公正?」「偏ってるんです、私」など、事実を伝えるためには必要のない修飾、疑問文、会話文などが使われています。

事例を用いて練習してみましょう。まず、新聞(総合紙)モードで各段落に見出しをつけると、こんな感じになります。

 

   <見出し>               <表題>

少子化による人口減少が加速    ⇔  日本が抱える少子化問題

さまざまな負の影響が発生     ⇔  人口減少による影響と対策

対策は高齢者に不人気       ⇔  少子高齢化への対応が進まない理由

若者の意見を反映するためには   ⇔  将来の問題を直視する政治を

 

表題と対比すると、その違いがよくわかりますね。表題が段落全体で何か書かれているかを要約しているのに対して、見出しは主要な記述内容を具体的に示しているのです。体言止め、倒置法が多用されるのも見出しの特徴です。

それでは、堅めの見出しをもう少し柔らかくして、総合紙とスポーツ紙の中間くらいにしてみます。

 

少子化で日本の人口は半分に

避けられない社会保障制度の崩壊

正しい政策が不人気な理由とは

若者よ、将来のために声をあげよ

 

ビジネス文書では、このレベルが限界かと思います。誇張した表現はありませんが、読み手が興味をそそられる言葉がちりばめられています。「人口は半分に」「避けられない~崩壊」「正しい⇔不人気」「声をあげよ」といったところです。

さらに、週刊誌・スポーツ紙のレベルまで柔らかくするとどうなるか。

 

えっ、日本の人口が半分になる?

どうする。社会保障制度は崩壊寸前!

身動きできない、高齢者票頼みの政治家たち

さめた若者、ネットで選挙に呼び戻せ!

 

感嘆詞、はてなマーク、びっくりマークなど、「読んでくれ」という編集者の思いが伝わってきます。たしかに興味はそそられるかもしれませんが、見出しのせいで、文章全体の格調が損なわれるので注意しなければなりません。作者がほんとうに言いたいことを表しているかどうかも疑問です。こうしたくだけた見出しのつけ方もあるよ、ということで頭の片隅に置いていただければ十分です。